驚異のエージシューター田中菊雄の世界4 武藤一彦のコラム


 田中さんとの初ラウンドはスタートして、4ホールで4オーバー。大変なことになった。だが、続く5ホール目だ。12メートルもあったろうか。14番のパー5で長いバーディーパットを入れた。ドカーン!と音が聞こえたような気がする気迫のパットだった。グリーン左下からの打ち上げのロングパットは距離を合わせるもの難しく、3パットもありえる難しいラインだが、ドカーン!田中さん、待っていましたというように、にっこり、右手を軽く上げた。

 

 これでお祓いできたのか。雰囲気はがらりと変わった。それ以降、ボギーはついにホールアウトまでたった1回だけ。あとのホールは判で捺したようにパー、パー、パーにまとめるという回復力をみせたのだ。

 

139回目エージシュートのスコアカード

139回目エージシュートのスコアカード

 その日のスコアカードを写真に紹介した。面倒でもチェックするとそのすごさが伝わってくると思う。インスタートの大乱調にも関わらずスコアは39。そして午後のアウトは難易度1位の5番ホールをボギーにしただけの37。トータル76である。球聖ボビー・ジョーンズは「ゴルフはパーおじさん(アンクル・パー)との闘いだ」と喝破したが、パーおじさんとうまくお付き合いしているとスコアなんていとも簡単にまとまるものなのです。いや、まとまるものなのでしょう。

 

 凡人には不思議な世界だった。ボギーが先行した挙句のダブルボギーですよ。たいがいの人は“今日はついてない”“これだからゴルフはむずかしい”-意味もない御託を並べ、その日のラウンドをフイにする。

だが、田中さんを見ていると、ボギーにしようが、ダブルボギーをたたこうが、騒がない。普通。そのかわり、何とかしようと素振りをする。ルーティンをしっかり行う。基本をひたすらなぞって真摯に現実と向かい合う。

 

 気分を変えようとしているのだろう。カートに乗らず歩いたり次のホールへ傾斜を上ったり、とにかくプレーに集中しようと努力するのだ。とはいえそれがプレースタイル。迫力というか、気迫は一緒にいてとても気持ちがいい。こっちも奮い立つくらいのオーラがある。田中さんを面白がっている人(筆者です)の期待に応えよう。田中さんにはそのプレッシャー、気負いがある。だが、それらも含めてのゴルフなのだろう。いつもの調子に戻すための努力。それが一緒にいると、ゴルファーの質というか量感となって伝わってくるのだった。

 

笑顔で素振りする田中さん

笑顔で素振りする田中さん

 この現実を見よ。その日、4オーバーのあと残り14ホールを田中さん、1バーディー、1ボギーで回ったのである。こ76は年齢を5打も下回るエージシュートに5アンダーの快挙である。とてつもないスコアである。「年齢(エージ)と同じスコアか、それ以下で回ることを目指すエージシュート」だが、「アンダーエージ・シュート」という別の世界があるとすればそれは田中さんのためにある。

 

 実は田中さんのアンダーパー記録は7アンダー。同じよみうりGCを2016年4月、「芝刈会」というコンペでの74が自己のアンダー記録だ。「はじめのダブルボギーなどが惜しかったですね」というと「これだからゴルフはおもしろいんですよね」とかえってきた。「8アンダーのエージシューターをいつかやってやろうと目標にしています」という。きっと達成するのだろう、いや、達成する。