松山英樹が求めた石川遼の”一喜一憂”しない強さ


ラインを読む松山英樹(左)と石川遼

ラインを読む松山英樹(左)と石川遼

 石川遼(25)=カシオ=の言葉を今でも鮮明に覚えている。8年前の08年11月、マイナビABCチャンピオンシップ(兵庫・ABC・GC)を制してプロ転向後ツアー初優勝を飾った石川は、翌週の賞金ランキングで6位に浮上した。

 17歳のツアー最年少ルーキーがシーズン終盤で賞金王争いに顔を出す快挙に報道陣は色めき立った。記者団に囲まれた石川はこう答えた。「6位というのはただの結果でしかない。そのことで、ぼくのゴルフに対する気持ちが変わることはありません」。

 多くの人は結果をもとに他者との比較によって自己評価を下す。それによって自信を持ったり、落ち込んだりもする。あどけない顔の少年の内面には、一時の成功に一喜一憂せずしっかりと自分を保つ強さが宿っていた。地に足をつけながら技術を磨き続けた「ハニカミ王子」は1年後、史上最年少で「賞金王」となった。

 2016年11月24日から4日間にわたって開催された男子ゴルフの国別対抗戦、ISPSハンダ・ワールドカップ(豪州・キングストンヒースGC=7111ヤード、パー72)。この大会は出場資格を有する国の同年8月1日付の世界ランク最上位者がパートナーを選べるが、日本人世界ランキングトップの松山英樹(24)=LEXUS=が指名したのは石川だった。

 石川は8月下旬にRIZAP・KBCオーガスタ(福岡・芥屋GC、7151ヤード=パー72)で優勝したものの、2月から腰痛に苦しみ、実戦に復帰したのは予選落ちに終わった7月の日本プロ選手権日清カップヌードル杯(7~10日・北海道クラシックGC)だった。

 その上、石川よりも世界ランクが上の日本人選手は他にもいる。それでも「遼がいい状態に持って行ってくれれば、俺たちならやれる」と松山は同学年のライバルと世界一を目指すことに踏み切った。

 ショットの正確性では、世界ゴルフ選手権シリーズを制して世界屈指のゴルファーとなった松山に軍配が上がるかもしれない。でも、ワールドカップを通じて日本チームを精神的にリードしたのは石川だった。アプローチショットでピンに寄せきれずに悔しがる松山にさりげなく「ここから狙えるのはあそこしかない。ナイスショットだ」と声をかけた。

 1つのボールを交互に打つフォアサム形式のストロークプレーで行われた初日は前半を3オーバーと出遅れたが、15、16番で6メートル超のバーディーパットを石川がねじ込み、優勝戦線に踏みとどまった。悪い時でも常に自分を見失わない。10代のころから備えていた一喜一憂しない強さは、米ツアーやけがを乗り越えた経験からさらにたくましくなっていた。松山が石川を指名した理由の一端を垣間見た気がした。

 2人が世界一を目指した戦いは、優勝したデンマークと6打差の6位で幕を閉じた。目標には届かなかったが、石川はこう思うだろう。「6位というのはただの結果でしかない。そのことで、ぼくのゴルフに対する気持ちが変わることはない」と。また強くなった25歳は、12月1日から東京よみうりCCに舞台を移して日本シリーズJTカップ(東京よみうりCC、報知新聞社主催)に挑む。(記者コラム・矢口 亨)

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