「エージシュートを456回も達成している田中菊雄さんがツアー史上最高齢でキャディーをつとめた」ースポーツ報知のゴルフ面をそんな記事が飾ったのは7月末の女子ツアー「サマンサタバサ・レディース」(茨城・イーグルポイントGC)だった。
記事は続けた。「田中さんはゴルフの指導を受けている浪崎由里子プロのキャディーバッグを手押しカートで運び、ライン読みでも貢献。年間200ラウンドをこなす鉄人はプロをサイドからサポートした」と報じた。84歳の高齢キャディーについては、ツアー関係者は「キャディーの年令は記録として残していないが、84歳は聞いたことがない」とする見解もあわせて紹介、史上最高齢の可能性位が大きい、と報じた。他のスポーツ紙はじめインターネットのヒット数も連日5万回のヒット数となるなど予想外の注目を集めた
小祝さくら、渋野日向子、勝みなみら1998年生まれの黄金世代に沸く女子ツアー界。大会には海外遠征中の畑岡奈紗を除く20歳の若手プロがこぞって出場、3日間で1万人を越える観衆で盛り上がる中、反響を呼んだ。
ラウンドをカメラマンが追い、ホールアウト後、二人は記者に囲まれ異例ともいえる30分を越える取材を受けた。田中さんは「プロアマ競技で知り合い、プロには以来、指導を受けている。女子プロの技術はアマには参考になる。おかげでここのところエージシュートが順調に回数を増やしている」「キャディーについては私が懇願してオーケーしてもらった。競技の内側から1度、トーナメントを経験してみたかった、ハイ、わがままです」―そんなやり取りが記者との間で交わされた。結果的には奮闘むなしく浪崎プロは予選を通過できなかった。が、ほほえましいエピソードはツアーの歴史に最高齢キャディーというユニークなレコードを刻んだのだった。大会はプロ3年目の小祝さくらが初優勝、黄金世代では8人目の優勝者に輝いた。
浪崎プロとのラウンドは「バーディーチャンスの惜しいパットを1ラウンドに4、5回はあったが入らなかった。チャンスを確実にものにしないとおいていかれる厳しい世界を痛感した。思っていた以上に高いレベルの中、パットの重要性を改めて知った」と田中さん。同時に「いいアドバイスができなかったことを悔いています。本来は、若いプロが担ぐところを無理にお願いしたが、悪いことをした」と悔いた。そんな田中さんにプロは「私が至らなかった。また頑張りましょう」と“相棒”をいたわった。
熱中症も心配された極暑のトーナメント。84歳の初体験はほろ苦い思いを残して終わった。思えば、突然襲った右ひざの痛み。キャディーのことはその直後、いったんはご破算となったが、痛みが去ると、“やる気”が再燃。一気に実現すると、その意気込みが他人にも伝わり新鮮な話題を提供するあたりに田中パワーのすごさがある。
キャディーが決まるとプロともども本番のコースで自分もクラブを持ち練習ラウンド、ツアー週には火曜日から連日,キャディーをつとめて猛暑の中、ケロリとしていたものだ。“本当にゴルフがお好きなのですね”と驚くといった。
「ゴルフにまつわることにはすべておろそかにできないタチ(性質)ですから」と笑った。エージシューターが演出した、極暑の夏の暑さを吹き飛ばす爽やかな物語だった。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。84歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。