驚異のエージシューター田中菊雄の世界123 武藤一彦のコラムー85歳の誕生日にエージシュート出発


 3月3日。85歳の誕生日にエージシュートが出た。よみうりGCを42,42でさらりと回ってエージシュートは2月21日以来、実に11日ぶり。85歳第1号、通算回数は523回となった。
 いろいろとあった。
 例年寒さの厳しいこの時期、記録は1打足りない悔しいラウンドが続いた。残り2ホールを残し、4打余裕があったのに「17番でトリプルボギー、それでも最後ボギーならエージシュートだったというところでダブルボギー。「アプローチをショートして、そのあと寄らず入らずとか、もうハハハ、とわらうしかありません」といったのは2月下旬。木更津GC、東京よみうりCCとコースを代えてもダメ、研修会のタフな環境、バックティーでの若者とのがガチンコ勝負と挑戦するのだが、90をたたくなど田中さんらしさは消えた。
 しかし、悪びれず、あるがままを受け入れるのが田中流。こだわらない、捨てない、あきらめない。何があろうがすべてあとの肥やしだ。笑って悪い思いを吹き飛ばすべきところを心得て「こういうこともある」「これがゴルフ」とさばさばと解決してしまう。そこが名人たるゆえん。500回になんなんとするエージシュートをやるにはそれと同じくらいの悔しい記録が積み重ねられているのだ。「またいつか良くなりますよ」と巧みに処理している。

 

 誕生日のエージシュートは82歳時、木更津GCを41,41の82で回って以来2回目となる。誕生日には家族や近い人たちと誕生日会と称した内輪の会で祝うが、誕生日にエージシュートを2回もして見せた。ここらあたりにも田中流のこだわりが潜んで迫力がある。
 実は記録男の田中さんだが、ある記録が途絶えた。84歳時のエージシュート数は実に123回を数えたが、この記録は83歳時の125回に3回だけ及ばなかった。田中さんがエージシュートを複数回マークし年々、その記録を増やし続けたのは78歳16回以来である。記録は毎年更新され79歳のとき28回、以来80歳で50回、81歳81回、そして83歳が年間125回。しかし、84歳時、この記録はわずか3回及ばなかったのである。
 実はそんなデータを心ならずも提示したのは筆者である。つい回数にこだわるあまり「今年も新記録達成なるか」とあおった。反省しているが、あとのまつり。挑まれると受けて立つ田中さんの腕に、もしや余計な力が入ったのではないか。プレッシャーという、最も不可解なゴルフにつきものの敵が取りついたのではなかったか。田中さんは「そういう課題を突きつけられたのを励みにして頑張ったが、力及ばず、心残りですねえ」と笑ってくれるが、気になって仕方がない。
 しかし、84歳時も120回越え。そして誕生日の好発進である。コロナウイルス騒ぎも逆手にとって意気盛ん。その姿は次回。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。85歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。