マスターズウィークから2週間が経ったが、今でも感動は続く。というよりも、さらに深くなる。
松山英樹(29)=LEXUS=が日本人初の栄光を手にするまでの激闘。何度でもTBSの録画を見て楽しむことができる。
4ラウンドで278ストローク。300ヤード超のショットも、10センチのパットも等しい価値があるが、私が個人的に最もシビれた一打は、最終日の1番パー4の第2打だ。
2位に4打差をつけて迎えた最終日。松山は3ウッドで放った第1打を右に大きく曲げて、林に入れた。
リカバリーの第2打。松山は、広いエリアではなく、グリーン方向の狭いエリアを狙った。低い弾道のボールは木をギリギリにすり抜け、フェアウェーに戻った。
第3打のアプローチはピンに寄らず。約10メートルのパーパットは惜しくもカップ縁に止まり、ボギースタートとなった。その時点で、2位に浮上したウィル・ザラトリス(24)=米国=と1打差に。4打差から、アッと間に肉薄されたが、ボギーでしのいだことで最悪の流れになることは免れた。
勝負の世界で「たられば」は禁句だが、もし、1番の第2打が木を直撃し、右に跳ねたら、OBの可能性もあった。シビれる状況だった。TBSで解説を務めたトッププロの中嶋常幸(66)と宮里優作(40)の両氏も「狙った木と木の間よりも右の間を抜けたのでは?」と驚く一打だった。
松山のトラブルショットを見て、私は、8年前を思い出した。
2013年4月。プロデビュー戦となった東建ホームメイトカップ。インスタートの10番パー4。松山の記念すべきプロ第1打は、左に大きく引っかけるミスショットだった。
がけ下、林、熊笹の三重苦。熊笹をかき分け、ようやくボールを確認できる最悪の状況だったが、ここから驚異的な粘りを見せた。「(熊笹に隠れて)ボールは見えていなかった」という松山は52度のウェッジで“心眼ショット”。第2打でフェアウエーへ脱出に成功した。残り125ヤードの第3打も52度ウェッジでピン右奥2メートルにつけてパーをセーブした。
その時、ギャラリーロープの外を一緒に歩きながら取材した松山の父・幹男さん(66)が笑顔で話したことをはっきりと覚えている。
「フェアウエーからうまく打てるのは当たり前。英樹はトラブルショットをどうするか、ということを楽しんでいる。昔から木の根っ子から打ったりするのが好きだったね」
日本アマにも出場したトップアマで、松山に最初にゴルフを教え込んだ幹男さんの言葉には強い説得力があった。
世界のトッププロでも、1試合4ラウンドで数度はショットを曲げる。
その時、トラブルに動じない。むしろ、楽しもうとする。
松山英樹がマスターズを制した勝因のひとつだと思う。(記者コラム・竹内 達朗)