国内男子プロゴルフツアーの2020―21年シーズン最終戦、日本シリーズJTカップが12月2日から4日間、東京・稲城市の東京よみうりCC(7023ヤード、パー70)で2年ぶりに有観客で開催される。賞金ランク2位で逆転での賞金王を目指す木下稜介(30)=ハートランド=は29日、同じ奥嶋誠昭コーチ(41)に師事し、賞金女王に輝いた稲見萌寧(22)=都築電気=との男女タイトル獲得を誓った。
頂点を目指す木下稜が、並々ならぬ決意を示した。現在賞金ランク2位で、逆転賞金王には優勝か単独2位以上が必須条件。この日は、まだ人けのないコースで入念に調整し「優勝以外考えず、諦めず全力でプレーしたい」と真っすぐ前を見つめた。
前週のカシオワールドオープンではパッティングの不調がショットにも影響し、予選落ち。19年秋から師弟関係を築く奥嶋コーチの指導を受けるべく、賞金王争いをする選手では異例の早朝7時35分に一番乗りでコースに来場した。3時間の指導の中で、不調の原因だった手で振り上げるスイングを胸郭を使う動きに修正。ショットとパッティングの練習後、5ホールのみ行ったラウンドでは、9番で残り100ヤード以上の第2打をピン横50センチにピタリ。「少しずつ感覚もよくなってきた」と復調の気配を見せた。
前日(28日)には、同門の稲見が一足先に賞金女王に輝いた。統合された2020―21年シーズンを戦い抜いて手にしたタイトルにコーチが涙し、稲見がもらい泣き。木下稜はその場面をテレビを通して見届けた。「コーチもしんどくてつらかったと思うし、僕らがプレッシャーをかけていた。男女で賞金王を取れたら一番の恩返しになる」
木下稜が条件をクリアし、賞金ランク1位のチャン・キム(31)=米国=が単独13位以下なら逆転でのタイトルを獲得。最終戦Vでの逆転賞金王は1973年のツアー制施行後、2000年の片山晋呉(48)=イーグルポイントGC=、17年の宮里優作(41)=フリー=の2例だけ。以前から口にしてきた同門アベックタイトルは木下稜にゆだねられ「僕次第なので優勝目指して頑張りたい」。3年分の思いをラストチャンスにぶつける。(菅原 美沙)
■記者の目 木下稜の持ち球は右から左に曲がるドロー、稲見の持ち球は左から右に曲がるフェード。奥嶋コーチは「やることは大して変わらないけど、みんな違う部分がある。本人を尊重して理論を押しつけない」という指導方針を持つ。
10月末に行ったインタビューで奥嶋氏は「僕自身が前進するために、より分かりやすく教えたい。メカニズムが分かれば何をすればいいか(解決法が)分かる」と語った。指導者としての引き出しを常に更新し続ける理由は、「(選手に)追い抜かれた瞬間にコーチは必要とされなくなる」という危機感から。稲見から「奥ちゃん」と呼ばれる名コーチが、ショットメーカーを輩出する理由がここにある。(ゴルフ担当・岩原 正幸)