女子ゴルフの1998年度生まれ“黄金世代”植竹希望(24)=サーフビバレッジ=が、4月のKKT杯バンテリンレディス(L)で世代10人目のツアー優勝者となった。プロ6年目での頂点を支えたウェッジは、フソウドリームでクラブ職人・田淵正敏氏が手がけるブランド「BUCHI」を愛用する。同社で担当する森孝之氏と田淵氏が、植竹と道具の強みを語った。(取材・構成=宮下 京香)
ツアー屈指のショットメーカー・植竹は、自身も「クラブオタク」と言うほど特別なこだわりを持つ。ジュニア時代、クラフトマンに教わったことから追求を続けている。アプローチの改善に向け、下部ツアーが主戦場だった2019年、田淵氏が手がける「BUCHI VS200」を引き合わせた。
森氏「初めてウェッジを手渡した時、驚いたことに植竹選手はスイングもせず構えた瞬間に即決。クラブの『顔』を気に入ってくれたようです」
クラブ製作に40年携わってきた田淵氏は、石川遼が07年のマンシングKSBカップで世界最年少の15歳(当時)でアマチュアVを遂げた際の2アイアンも手がけた。10年に自身のブランド「BUCHI」を設立。フソウドリームと業務提携し、ゴルファーに提供する。
田淵氏「ヘッドの形状は他社製と比べて小ぶりだが、バックフェースの上部が丸みを帯びている。実際に1~2ミリ厚みを持たせており、構えた時の『安心感』を生み出した。打感は柔らかく、操作しやすくなっています」
植竹は昨年の住友生命Vitalityレディス東海クラシックで2位。優勝まであと一歩に迫っていた。今季はアプローチでの感覚を養うため、バンス角(シャフトを垂直にした際、水平線とソールの延長線との間にできる角度)を昨年までの12度から8度に削るよう依頼。4月のKKT杯バンテリンLで初優勝を挙げると、さらに削って6度に。田淵氏は繊細なオーダーにも応える。
植竹「(アプローチでは)ハンドファーストにする(構える)癖があり、バンスがあるとはねてしまったり。地面とボールに対して(クラブが)きれいに入りにくい事があります。地面を取らずにボールだけをきれいに拾う感じが欲しくて。打ちやすさを求めました」
森氏「さらにバンス角のないものも作って欲しいという要望には、驚きましたが、少しでも力になれればと思っています」
植竹はKKT杯バンテリンLでツアー最長2時間のプレーオフを制し、初優勝。6ホール目の18番パー5。グリーン右のバンカーからの第3打、田淵氏の提供する58度ウェッジでピン2メートルに寄せ勝利を決定づけた。田淵氏もテレビの画面越しで歓喜に酔いしれた。
田淵氏「バンカーでウェッジを持ってから、手に汗を握りながら見てました。(BUCHI設立後、ツアープロの優勝は)初めてのことですから、うれしかったです」
植竹も「リクエストに応えてくれる」と信頼。見る人を魅了するスイングとそれを補う現代の名工が作り出すギアで、2023年はさらなる飛躍を遂げる。
◆植竹 希望(うえたけ・のぞみ)1998年7月29日、東京・葛飾区生まれ。24歳。4歳でゴルフを始める。14歳の時、2013年のスタジオアリス女子オープンで最終日最終組で回る。東京・日出高卒業後の17年のプロテストに一発合格。20年に下部ツアーで1勝。20―21年に賞金ランク33位で初シード。プロ野球・ヤクルトのファン。趣味は料理。170センチ、61キロ。