5月からゴルフ担当になり、1か月半が経過した。これまで男女計5試合の取材をしてきた。取材を重ねるにつれ、試合だけではわからない、選手の人物像も見えるようになってきた。なかでも、男子ツアーで今季賞金ランク1位(6月19日現在)でツアー2勝の中島啓太(フリー)が印象深かった。
記者が初めて元アマチュア世界ランク1位の中島を取材したのは5月31日だった。今季国内メジャー初戦、BMWツアー選手権森ビル杯の前日。前週のミズノオープンではプレーオフの末、惜しくも2位に敗れたが、大会前注目選手として取材した。その後も大会期間中、連日取材を重ねて「ほかの選手をリスペクトしつつ、自分のゴルフにも熱い思いを持つ選手」という印象を抱いた。
大会の第3、最終ラウンドでそのことを強く感じた。第3ラウンドでは、前週のミズノオープンのプレーオフで初優勝した同学年の平田憲聖と同組でプレー。「スタートホールで優勝者としてコールされるので、意識はした」と悔しさが残っているようにも見えた。だが、続けて「憲聖のポーカーフェースでも、強い気持ちを感じるところは尊敬できる。一緒に回っていて楽しかった」と笑顔で答えていた姿が印象的だった。
最終ラウンドでは、最後まで優勝争いを繰り広げた1学年年上の金谷拓実を称賛していた。1打差で金谷を追いかけていた17番。金谷が左ラフから池越えの難しい第2打で、50センチにピタリとつけるスーパーショットを披露。普段はプレー中に表情をあまり変えない中島が苦笑した。金谷がこのツアー屈指の難関ホールをバーディーとし、中島は2打差の2位に終わった。試合後の取材の際には、中島の目が潤んでいるようにも見えた。金谷の神がかり的な1打の話しを聞かれると「魂のこもったボールだった」と表現した。悔しい思いを抱えながらも、相手をたたえる。中島の人柄が伝わってくる2日間だった。
翌週のASO飯塚チャレンジドで、悲願のプロ初優勝を果たした。奇しくも金谷との一騎打ちとなり、最終ラウンドの18番をバーディーとし、プレーオフに持ち込んだ。2ホール目の第2打を30センチにピタリとつけ、勝負を制した。ウィニングパットを打つ前から涙を浮かべ、優勝を決めると涙があふれていた。2週連続2位の悔しさを見事に晴らした瞬間だった。
前週王者として迎えた、新規大会のハナ銀行招待。自身初めて3週連続で最終日最終組を経験し、大会前日の会見では「疲労は感じるが、集中力は保てている。今週も上位を目指したい」と語っていた。予選からスコアを伸ばし、最終ラウンドを4週連続の最終日最終組で迎えた。だが、序盤からティーショットが左右に曲がったり、足の運びが悪くなる場面も見られた。「頭も体もいっぱい、いっぱい。ボロボロの状態でプレーしていた」と振り返った。
1打差の2位で迎えた最終18番パー5。イーグルならプレーオフや逆転Vの可能性もあった。果敢に2オンを狙ったが、ピン奥8メートルへ。難しいパットが残り「腹立たしい」と自らにいらだちも見せた。「金谷さんの怖さを乗り越えて先週優勝した」。元アマチュア世界ランク1位の最大のライバルを倒し、優勝したからこそ自分に課すハードルも高くなっていた。BMWツアー選手権森ビル杯での敗戦以上に、悔しい思いが伝わってきた。
中島が常に口にする言葉がある。「いいゴルフをして上位争いをしたい」。結果よりも自分が納得するゴルフをモットーにしている。直近4戦で優勝1回、2位3回。まだ22歳だが、間違いなく今季の日本男子ツアーの中心的存在の一人になっている。自分に厳しく、他人を尊敬する心を持つ。取材を通して、その熱い思いが中島の強さにつながっていると感じた。(ゴルフ担当・富張 萌黄)