◆女子プロゴルフツアー 資生堂レディス 最終日(30日、神奈川・戸塚CC=6697ヤード、パー72)
1打差2位から出た桑木志帆(大和ハウス工業)が4バーディー、1ボギーの69で回り、通算11アンダーで悲願の初優勝を飾った。プレーオフ(PO)で敗れて悔し涙を流した昨年大会の雪辱を果たし、今年はうれし涙でツアー通算93試合目で栄冠を手にした。昨季は未勝利ながらポイントランク10位と、活躍を期待された21歳が真価を発揮した。単独首位から出た堀琴音(28)=ダイセル=は72と伸ばせず、2打差2位に終わった。
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リベンジを果たした桑木が、両手を突き上げて雨の中で歓喜に浸った。POで敗れた昨年は悔し涙が止まらなかったが、今年はうれし涙が頬を伝った。「優勝した実感がなくて頭が真っ白。去年の忘れ物を取りに来られて、本当によかった」。この日詰めかけた7752人のギャラリーに1年間で成長した姿を見せた。
最後まで強気なプレーを続けた。「『打てないと勝てない』とネットで書かれて悔しかった。打てるところを前面に出した」と序盤からカップをオーバーする強めのパットを打ち続けた。5番で8メートルを沈めて、最初のバーディー。9番では下りの13メートルをねじ込み、課題だったパターでスコアを伸ばした。
昨年POを行った18番を1打リードして迎えた。「今年はPOにはしたくないと思っていたので、18番で決着をつけたかった」とギアを一段階上げた。12ヤードのアプローチを残したが「セーフティーにいったら負ける。昨年の自分はセーフティーに打って追いつかれて負けてしまった。今年は引き離すぞぐらいのメンタルでを持っていた」とバーディーを狙った。わずかにカップをオーバーしたが、パーセーブで初Vをつかんだ。
1年前の自分と比較しながら18ホールをプレー。昨年は「バーディー取らなきゃという気持ちが焦りに変わって、悪い方に自分で流れを持っていっていた」と振り返った。今年からトレーナーとコーチをつけて心身ともに強化。「去年まで一人で抱え込んでいたことを、周りがいることによって一人じゃないと思えた。前向きに背中を押してくれたので力になった」。悲願の1勝はチーム全員でつかんだものとなった。
今年2月には米・ロサンゼルスで約2週間の合宿を実施した。その際、松山英樹(32)が優勝を果たしたジェネシス招待の練習ラウンドを見学。タイガー・ウッズ(米国)、ロリー・マキロイ(英国)のプレーを見て「ショットは異次元すぎてまねできないけど、アプローチとパターはすごく勉強になった」と世界トップの選手たちから刺激を受けた。
憧れの選手に同郷の先輩・渋野日向子(25)を挙げる。今回、キャディーを務めた門田実氏(54)は19年大会で渋野とタッグを組んで優勝。「(18番は)渋野さんと同じところからのアプローチだった。わざと?っていうくらい」と門田氏は、同年にAIG全英女子オープン覇者の姿に重ね合わせた。
初めての表彰式は強い雨風の中行われた。雨女を自認する桑木は「晴れたところで写真を撮りたかった」と苦笑いを浮かべた。次の目標には「2勝目」と掲げ、青空の下での記念撮影を切望する。海外志向も強く、今年の米予選会も「受けたい」と意欲を見せる。さらに先の大きな野望は「世界ランク1位」だ。桑木のシンデレラストーリーの幕が開けた。(富張 萌黄)
◆桑木 志帆(くわき・しほ)2003年1月29日、岡山市生まれ。21歳。4歳でゴルフを始める。岡山理大付高を卒業し、倉敷芸術科学大在学中。21年6月のプロテストで一発合格。昨季はメルセデス・ランク10位で初のシード入り。憧れは同郷の先輩・渋野日向子、吉田優利。得意クラブはドライバー。164センチ。