驚異のエージシューター田中菊雄の世界27 武藤一彦のコラム─アプローチもフックスタンス【技術編】


 冬のゴルフは難しい。寒さがなんといっても大敵。早いスタート時間など手がかじかんで調子がつかみづらい。北風に加え春一番がもたらす強風が球をもてあそぶ。おまけに芝は薄くフェアウエーからのショットは上がりにくい、グリーンは堅くボールのスピードは米ツアー並みだ。

 

 さすがの田中さんも苦戦中である。昨年末までの好調ぶりは年明けも続き2月8日には通算185回目を相性のいいよみうりGCで飾った。だが、その日を境にエージシュートはぱったりと出なくなっている。

 

 「出なくなった…」と事もなげに書いたが、田中さんのすごいところは、1、2打及ばなかっただけ。成功も失敗も一緒に回っているとどのラウンドも迫力満点だ。それはそう。81歳にしていずれも77、78。及ばなくても常に2、3ストローク。そういえば今年ご一緒したとき87があったのが、それがこの9か月間で同組ラウンドのワーストスコアであった。成功より失敗。エージシュートの出る確率は驚異のエージシューター田中菊雄さんにして3割。失敗の方が成功より倍も多いことは既述した通りだ。

 

 何がスコアを阻んでいるか。田中さんとの会話でまとめると「張り切りすぎかな。例年になく調子がいい。東京の天気は2月に1日だけ雪のためコースがクローズになっただけ。そのためラウンド数も多く、自分としては気負いがあったようだ。気持ちがせくというのかな。みんなにいいところを見せようと焦っているのかもしれない」。

 

 3月3日、82歳の誕生日を迎える田中さん。81歳のシーズン途中、100回の大目標を立てていた。年間達成数の最高は80歳の時の50回。81歳ではそれを倍上回る100回という大目標。めっぽう調子が良かったのだ。田中さんの年齢別エージシュート数は下記表の通り。

 

 【田中さんの年齢別エージシュート数】

 71歳 1回  70

 73歳 2回  72

 74歳 1回  72

 75歳 4回  73

 76歳 1回  76

 77歳 1回  77

 78歳 16回 73

 79歳 23回 73

 80歳 50回 73

 81歳 81回 72

 ※数字はベストスコア(2017年2月20日現在)

 

 さて、田中ゴルフの技術、アプローチである。

アプローチもフックスタンス

アプローチもフックスタンス

 飛ばすドライバ―ショット、ボールだけではなくその下の芝の根っこまでをしっかりと打つアイアンはフックスタンス、しっかり上げたバックスイングからインパクトは即フィニッシュのパンチショットだ。

 

 アプローチもまた広いフックスタンスから絶妙のうまさ。上げる、転がす、バンカーも含めグリーン周りのうまさと言ったらもう口をあんぐり、驚きに目は開きっぱなし、というほどうまい。

 

 「アプローチといえどもショットに変わりない。バックスイングをしっかりとあげる。しっかり上げるほどゆっくり打てるからしっかりあげます」

フェースにボールを乗せるインパクトはやわらかい

フェースにボールを乗せるインパクトはやわらかい

 フックスタンスで広いスタンス。左甲を上、そのグリップに手の平が上を向く右を添える。その構えからボールを右に置きランニング。上げたいときは左へ出してしっかり。アプローチはオープンスタンスが常識と信じて疑わないゴルファーには信じられない技と心で驚きの世界だ。それは次回。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。