驚異のエージシューター田中菊雄の世界38 武藤一彦のコラム─不安定を克服するから安定が生まれる 山あり坂ありのコースを不安定な感情を抱えてやるゴルフだ、ゴルフは不安定との闘い


 「ゴルフはグリップと姿勢と球の位置である」と断じる田中ゴルフの次の大切なテーマはスタンスだ。

 

 ドライバーショットは右45度を向いたクローズドスタンスであることは始終、紹介してきたが、ポイントは2つ。そのひとつは安定した土台作り。もう一つはゴルフが起伏の中で行う山の跋扈(ばっこ)型のカントリースポーツということだ。

 

傾斜が当たり前のゴルフだから不安定さになれないといけない

傾斜が当たり前のゴルフだから不安定さになれないといけない

 「年を取るとスイングが小さくなる。年を取るほどどんどん小さくなる。だからどんどん大きくしなければならない」

 

 田中さんがスクエアスタンスを60歳代の中ごろクローズに変えたのは「右サイドを広くすればふところが深くなる。後ろは自分で大きくできる唯一の方法だからバックスイングをいまの形にした。後ろが広くなることで縮んでいた手が伸び、背筋が伸びクラブが走り、インパクトに戻りやすくなった。そのおかげで飛距離も安定感も増した」。驚異のエージシューター田中菊雄の誕生だ。

 

 この過程をプロに聞くと誰も否定しない。「年取ってクローズスタンスは常識である」田中さんは江連忠プロのアドバイスを得ている。だが、いま注目したいのはそうした過程を経ていま田中さんは「不安定こそ安定があるということです」ときっぱり言っていることだ。

 

 「不安定な中にある安定こそ、いまのぼくのゴルフの基本である」―今回のテーマである。

 

 スタンスはスクエアが望ましい。スクエアグリップ、左右対称スイング、ゴルフを始めたころ徹底的に叩き込まれたスイング理論だが、ゴルフを長くやるうちにそれが必ずしもすべてではないことはゴルファーなら誰でも経験したことだ。球をクラブで扱うゴルフである。しかも山野を歩き回りながら球を目標に打つゴルフ。平らなところの技がそのまま通用しないのがゴルフなのだ。田中さんの言いたいところ、主張、そのゴルフの基本は、不安定なコースを練習場と決め、不安定なライの中で徹底的に仕立ててきた。

 

 ゴルフコースで最も平らなところはティーグラウンド。そのドライバーショットを打つ田中さんは45度のフックスタンスから打つ。だが、ティーを下りればそこはでこぼこのアンジュレーションである。すると田中さんのスタンスはスクエアになり、時にオープンスタンスにもなる。スタンス幅は狭くなることはないが基本のクローズを元に不安定さを追求しているではないか。

 

 コースにおけるそのプレーぶりはゴルファーというよりスキーヤーではないか、ときにそんな錯覚に陥ることがあるほどだ。自分を安定させようと、スタンスを変え傾斜と戦う。つま先下がり、左足下がりの複雑なライにはオープンスタンスから、微動だにしない広いスタンスから見事なアイアンショットを打って感嘆の声を引き出している。

 

 不安定なゴルフだからこそ安定を求め極端なスタンス。千変万化の傾斜の世界だからアンジュレーションと仲良く付き合う順応性がある。好スコアに笑い、ミスに泣くゴルフはスコアにこだわる自分との戦い。エージシュートという目標、目的を持ちスコアにこだわる姿には学ぶところが多い。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。