驚異のエージシューター田中菊雄の世界48 武藤一彦のコラム─バンカー?思い切りだ、しっかり振る、ショットと同じだ。田中流・思い切りの美学をラウンドでみた


 5月2日、ゴールデンウイークの3日目によみうりゴルフクラブ(東京・稲城市)を田中さんとラウンドした。今年のゴールデンウイークは9連休と言われたが、月、火曜日はウイークデー、職種によっては出勤する会社もあったのだろう、比較的のんびりと田中さんとのラウンドとなった。
 同伴競技者は清子夫人と友人の高田さんの女性二人。

 

 田中さんは4月30日、東京よみうりCCを、年齢を下回ること4アンダー78ストロークというとてつもないアンダーパーでまわり、197回目のエージシュートを達成したばかり。だが、198回をもくろんだその日はスタート直後の4ホールで4オーバー、中盤もちなおしたかと思われた午後の上がり3ホールも3連続ボギーとして41、42の83打。惜しくも1打エージシュートに足りなかった。
 「ショートパットを外し、バーディーを取れなかった3つのパー5が失敗だった」と悔しがった。が、そんな内容でも中盤見事なパーを5ホール連続するなど、あと1打で踏みとどまるあたりさすがだった。「調子が良くても悪くてもゴルフは何が起こるかわかりません。最後のパットがホールに沈むまで私は絶対あきらめらめません」が口癖。随所に見せるその粘り強いプレーは今回のテーマ、ショートゲームにもつながる。
 好プレーを拾い出してみた。
 午前4ホールを終わって4オーバー。名人のめったに見せない乱調だったが、その直後、田中さんは「よし、厄落としは終わった」とかえって明るい表情になったのには驚いた。腐るどころか、晴れ晴れ。すると言葉通り次からの5ホールを5連続パー、そして午後もスタート後パーを連続させると目標とする80前後のスコアは上がり3ホールに望みをつないグリーンのだった。

 

5月2日1打及ばず、よみうりGCの田中さん(左は清子夫人)

5月2日1打及ばず、よみうりGCの田中さん(左は清子夫人)

 よみうりGCは打ち下ろし打ち上げの多いコースだが、「打ち下ろしではピンを見ると右肩が突っ込むから目の高さに狙いをつける」「逆に打ち上げのホールは目線が上がると体が起きやすく球が右に行く」と集中度が高まった。高低に関わらず目線は水平にすると体はバランスを保て右肩が突っ込んだり、左が起きたりしないですむ。
 スタート前、メモ用紙に「バックスイングをしっかり」「パットは通り過ぎる勇気だ」とその日のテーマを書き、ラウンド中、時折りポケットから出して見る田中さんだ。注意点を口に出して自らに語りかけることもペースを崩さないための習慣。集中力を切らさないいい方法だ、見習いたい。

 

 ショートアプローチ。この日、バンカーに入ることが多くリカバリーはもう一つだった。すると「バックスイングが小さい、しっかり上がってない」何度も反省した。「すべてのミスは後ろが小さいことから起こる。バンカーではバックスイングが小さいとインパクトで砂をはじけない。砂をしっかりはじくパワーは後ろの大きさで決まる」―ドライバーのパワーの源(みなもと)。アプローチの微妙なフィーリングも後ろをしっかり上げてこそ手先に伝わる。バックスイングはバック(うしろ)にスイング(振り上げる)と心得て、と自分を叱咤激励する田中さん。たった1打に泣いた日だったが、「これもゴルフ、収穫だった」と潔かった。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。