全米ファンが熱狂するタイガー・ウッズの復活劇


 この約2か月、米男子ゴルフツアーが盛り上がっている。話題の中心は、今年に入って復活の兆しを見せてきた米ツアー通算79勝のタイガー・ウッズ(42)=米国=だ。「Tiger is back!」―。地鳴りのような大歓声がツアー会場を包んでいる。

 昨年4月、ウッズは腰を4度目の手術。5月には薬物などの影響下で車を運転したとして逮捕された。米メディアで引退もささやかれたが9月から練習を再開し、12月の自身がホストを務める慈善大会で戦列復帰。今年1月のファーマーズ・インシュアランス・オープンで約1年ぶりのツアー復帰を果たした。ティーショットは不安定で、左右に曲げる場面が多かったが、得意のアプローチがさえて15年8月以来となる予選突破で23位となった。

 2月のホンダクラシック第3ラウンドでは、強風に硬いグリーンという難設定の中、ツアー2年半ぶりの60台をマークして12位。その翌戦のバルスパー選手権では1打差2位に入った。656位で今年を迎えた世界ランクは、一気に149位にまで急上昇した。

 40代を迎えてスイングは変わってきた。もちろん、とても42歳とは思えない鍛え抜かれた肉体は健在。上半身は以前よりも一回り大きくなり、柔軟性を増したようにも見える。ドライバーショットは左足で地面を蹴る動きが目立ち、フィニッシュは体の中心から左足の上に立つように変化。体への負担を減らし、遠心力を使ったスイングに移行しているようだ。

 それでも、以前よりも軽いシャフトを使うなど工夫を凝らし、バルスパー選手権ではドライバーのヘッドスピードは今季ツアー最速となる毎秒57・75メートルを記録した。平均飛距離もツアー42位の303・4ヤードで、4度の腰の手術の影響や衰えは全く感じさせない。時折見せる笑顔やガッツポーズには、やはり人々の心を引きつける花がある。

 パーオン率61・11%(同174位)とまだアイアンショットには改善の余地がある。とはいえ、昨年1月に一時復帰した際に目立ったアプローチミスは少ない。木の裏からのリカバリーショットや目玉のバンカーからもピタリとピンに寄せてくる。要所でチップインバーディーを奪うなど、かつて史上最長683週間世界ランク1位に君臨した全盛時の“スキのない強さ”が戻りつつある。

 初出場のバルスパー選手権の1打差2位で出た最終日。2打差を追った17番で13メートルのバーディーパットを沈めて1打差に迫ると、グリーン周りを囲った大ギャラリーを熱狂に包んだ。18番で12メートルのバーディーパットが外れると、観客のため息の中、悔しそうにパターをたたいた。計32パットとグリーン上で苦戦し2バーディー、1ボギーの70。「チャンスを生かせなかったのは残念だが、大会全体としてはいい感触だった」と胸を張った。

 世界最高峰の米男子ツアーでもタイガー人気&効果は絶大だ。各大会の入場者数は増え、テレビ視聴率もうなぎ上り。15日(日本時間同日午後8時35分)開幕のアーノルド・パーマー招待は歴代最多8勝を誇るツアー屈指の得意大会だ。予選ラウンドは、左手親指付け根付近の負傷から復帰する松山英樹(26)=LEXUS=と同じ大会最注目組だ。抜群の相性から米ツアー公式サイトの今大会優勝候補予想で筆頭に挙げられている。腰の状態さえ維持できれば、いつ勝ってもおかしくない。13年8月以来で、史上2人目のツアー80勝なるかにゴルフファンの関心は高まっている。

 既に過去4勝の4月のメジャー初戦、マスターズ(5~8日・米ジョージア州オーガスタナショナルGC)のチケットは、米国内で高騰している。ブックメーカーの優勝予想オッズは半年前の100倍から10倍にまで急騰。メジャーは15年8月の全米プロ以来の出場で歴代2位の通算14勝を誇る。最後のメジャー制覇は10年前の全米オープンだが、長らく止まったままの時計の針が再び動き出すか。しばらく希代のスーパースターから目が離せそうにない。(記者コラム・榎本 友一)

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