驚異のエージシューター田中菊雄の世界93 武藤一彦のコラム


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 田中さんは驚くようなことをさらりと言って驚かせる。83歳になって4か月が経った7月のある日「72歳で競技ゴルフに見切りをつけエージシュートにはまって10年。この調子だと今年は、350回は行くでしょうね。これから先も年齢、健康との追いかけっこだが、84歳では400回の大台に届くかもしれない。おかげで年を取るのが楽しみになりました」といった。
 エージシュートは7月21日現在300回をはるかに越え317回。しかし、猛暑にめげず目標は350回、そして84歳の来年を見据えて400回の目標をついに口にしたのだった。この自信は一体どこから来るのだろうか。インタビューを試みた。

 

 ―エージシュート100回目が80歳9か月でした。200回目は82歳2か月。第1回をやってから100回目までは10年かかっているが、次の100回(合計200回目)までは1年5か月で達成とスピードが一気に早まりました。エージシュートは80歳過ぎると出やすいというデータがあるようにこれからですね。
 「加齢による衰え、病気、体調の変化など心配すればきりはないが、わたしの場合78歳から回数が2ケタに上がり、以来、年齢に比例して毎年、回数が増え続けている。その原因としてはゴルフに対する考え方、技術面などゴルフの質が間違いなく上がっているという実感がある。400回越え、さらにその先のことは運命に任せるしかないが、元気でいればエージシュートの回数は、ここしばらくは増え続けていくでしょう」

 

 ―技術が上がったということを具体的に説明してください。
 「歳をとるに従い、スイングが良くなっている。特に今年に入って実感があります。ゴルフは、しっかりスイングする、という言葉が日常的なスポーツですが、最近はしっかり上げ、しっかり振ることを迷いなくできるようになってきた、と受け止めています。そんな中、ヒントとなる発見もありました。ゴルファーは年を取ると大きいクラブで小さいスイングになるという傾向です。パワーがなくなり飛ばなくなると俺も年を取った、昔はこんなことはなかった、と愚痴が出始め、わたしもそうだったが、大きいクラブを手にすることが多くなる。すると途端にスイングが小さくなるのです。オーバークラブにするために知らず知らずのうちにスイングが緩むのですね。しっかり振らない癖が身につくと実質、飛距離はベタ落ちになります。多くのシニアゴルファーがだめになるのはこのゴルフの質の下降線のせいです」

 

 ―体力が落ちればワンクラブ、あるいは2クラブ大きめの番手にして打つのはシニアゴルフの常識だと思っていましたが、それはだめなのでしょうか?
 「歳をとると距離が長いと大きいクラブで打ちたがるが、スイング自体は小さくなります。大きなクラブを持つとドライバーは振りまわすが、フェアウエーウッドやアイアンは振らなくなる。振らないゴルフに気持ちの上で妥協しているわけですからそりゃ飛ばないですよ。昔はうまかった、と過去を振り返っている人ほどこの傾向がある。いまをどうするか、なのに昔にこだわり今を忘れてはうまくいきません」

 

 ―ではどう解決するのでしょう?
 「小さいクラブで大きいスイングをする。しっかり上げ、しっかり振る。これが私の鉄則です。短いクラブで大きなショット。9アイアンかなと思ったらウエッジでさらにしっかり打つ事を考える。ウッドかなと思ったらユーティリティーでしっかり。ドライバーはしっかり振るために打ち方を代え工夫を加える。極端なフックスタンスは、大きなバックスイングを心掛けた結果といいつづけていますがそれも一つの方法。バックスイングはバック(後ろ)にスイング(振れ)とドライバーからパットまで徹底して実践している上がったものは降りて来るが、上がらないものは降りようがない。はい、バックスイングです」

 

 ―ええっ?それではただの無茶ぶりに過ぎないのではありませんか?
 「皆さん、経験しているはず。例えばショートホールのティーショット。ショートアイアンのアプローチ。年々、うまくいかないのはアドレスで迷ったり考え過ぎからくるミスですが、原因はしっかり振れていないことから来ます。振ってないから当たらない、すると考えすぎてスイングすることができなくなる。果ては球に当てようとして、益々、小さなスイングに落ち込む。パッティングで長いパット、短いパットに限らずショートすることが多くなるのもスイングができていないせいであることも知ってほしい。ああ、俺はスランプに落ち込んだと嘆くまえに、その時点でしっかり上げしっかり打つこと。パットもスイングの一種です。ここに気が付くとすべて解決するはずです」

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。83歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。