驚異のエージシューター田中菊雄の世界94 武藤一彦のコラムーショートアイアンは強くしっかり打つ癖をつける


 「小さいクラブで大きなスイング。ショートアイアンはしっかり、強く打て。アイアンショットだからと言ってコントロールだ、ハーフショットだと策に走ったり緩めてはいけません。小さいクラブだが、しっかり強く、グリーンへ向かって打つ。ドライバーショットと同じように振る」田中ゴルフは年間200ラウンド以上をコースで仕立てる“現場主義”。アイアンショットの重要性を田中さんは、改めて認識させてくれようとしている。
 「ロフトが球の高さを決めてくれる。ヘッドが走れば正確性が出る。ヘッドが走るからスピンが効き強い球になる。アイアンが振れるとおもしろいものでドライバーショットも飛ぶようになります」―

 

 「コースに出てフルショットするのは30発だけ」いきなり言われたとき、なんてことを言う人だと思ったものだ。だが、18ホールを攻略するのがゴルフであり、その戦略としての作戦があると断固語る、その根拠には返す言葉もなかったものだ。
 「ゴルフはワンラウンドのうち全力で打つショットはわずか30発だけだ。14発のドライバーショットと4ホールのパー3のティーショットの18発。グリーンのパット32回をのぞいた残りの20発がアイアンショットです。そしてこれがゴルフらしいところで、オーバーパーが当たり前のハイハンデの人ほどアイアンを打つ機会が多くなります。これがわかると何が大事か決まってきます。そう、アイアンを使うことが本当に多い。これを磨かない手はありません」
 最近はユーティリティーの台頭でアイアンの影が薄いようだが、番手ごとに細分化された“グリーンを狙うクラブ”だ。しっかり振ることでドライバーにも役立つ技術が得られるのだという、放っておけない。

 

 恥をさらせばそんなこと考えもしなかった。ドライバーのティーショットをミスすればアイアンのロフトが上がりミスを繰り返す。そんな悪循環を繰り返す18ホールにいつしか消極ゴルフ。ウッドクラブで飛距離合わせの小手先ショットでどんどん自信喪失、今日に至っていた。長年ゴルフの専門記者として50年もやってきてクラブの使用頻度から分析するなど考えだにしなかったのである。

 

 視点で物事の見え方は変わる。ウエッジでドライバーを打つつもり。めいっぱい振ってみた。「トシだ、トシだとあきらめて、大きいクラブで小さいスイング。それがゴルフをだめにする」耳元で田中さんの声がする。右向いてフックスタンス、懐を深くボールは真ん中、フェースをかぶせてスタンスの向きに思い切って振った。フックが出たが、スライスは出なくなった。飛距離は明らかに10ヤード伸び、弾道も高くなった。

 

 7番アイアンのフェースをかぶせ、フックスタンスで満振りしたらオープンスタンスのスライスよりはるかに飛ぶことはだれでもわかる。
 フックスタンスにしフェースを目標に向けスタンスと同じ方向に振れば球に強いフック回転がかかり、プロなら220ヤードは軽く飛ぶ。

 

 エージシュートを目指すならバックスイングを大きく上げよう。「バックスイングとは後ろ(バック)にスイング(振る)と心得よ」―
 田中スイングは極端なフックスタンス。飛球ラインに対し45度、右足を引き左手を伸ばし思い切りバックスイングをうしろに放り投げる。45度にスタンスをとるから胸も背中も同じ向き、そのままフェースをスタンスの向きに向けたまま打つと球は右へ飛ぶから、フェースは極端にかぶせ、目標に向ける。向けたら大きくバックスイング、その勢いのまま、発し!と打つ。
 ここで大事なのは大きなバックスイング。右を向いた45度のスタンスだから右懐(ふところ)の深さは世界の誰と比べても一番深くしたい。スタート前の練習はウエッジ2本を持ちカチャカチャ、ぶーん!と7、8回振る。ドライバーを打つ前に決まったルーティーンはアドレスからバックスイングのトップまでを3回、4回とこんしんこめてふりあげる気迫の姿に象徴される。それくらい手中して大きく力強くバックスイングに取り組むのである。

 

 それくらいバック(後ろに)スイング(振る)にしたいのだ。

 

 「スイングをする際、ゴルファーが自分で決められるのはアドレスだけ。アドレスを始動したらあとは野となれ山となれ、風があれば左右され、グリーンを転がれば球はどちらに跳ねるか分からない」田中さんの口癖だ。開き直りと取らばとれ。しかし、その通りだ。あれもやろう、これもやりたいと考えるからミスは出る。ショットとはバックスイングとみつけたり。迷いがない。
 「ショットの時、プロはスクエアスタンスでフェースをまっすぐ目標に合わせ、ドローを打つときはフックスタンス、フェードの時はオープンスタンス。そう思うだけで肩のラインで方向を出している、しかし、われらアマは強い球を打つためのアドレスが第一だ。そこで工夫が必要とやったのが、パワーを出すための極端なフックスタンスと大きなバックスイング。飛ばす方向はフェースを打ちたい方へ向けるだけ。インパクトへ戻ればまっすぐ飛ぶからしっかり上げる事だけをしてやればいい」

 

 エージシュートをやるためのその2。スイングはバックスイングとこころえよ。手首をコックしバックスイング。ドライバーだけじゃありません。アイアンもアプローチ、バンカーショット。そしてグーン上のパット。すべてです。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。83歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。