今月11日から14日まで、横浜カントリークラブで行われた日本オープンゴルフ選手権を取材した。私にとって男子ゴルフ取材は久しぶりのこと。大会は稲森佑貴の初優勝で幕を閉じたが、出場選手の中で私はある選手に心をわしづかみにされた。崔虎星(チェ・ホソン)選手だ。
韓国出身の45歳。今大会は最終日に4つスコアを落としてイーブンパー27位タイに終わったが、私はそのティーショットを撮影するたび、静寂が求められるゴルフの現場にいながら笑いをこらえるのに必死だった。その独特なフォーム、特にフォロースルーは一度見れば二度と忘れることはないだろう。セットアップからインパクトするまではごくごく普通の流れ。しかしそこから想像もつかない動きが始まる。左足を残したまま右足を浮かせたかと思うと、片足だけでくるっと一回転するのだ。故障でもパフォーマンスでもなく、本人はいたって大マジメ。あとはクラブを高く掲げて打球を見送ると、何事かを発しながら自らの求める方向にクラブと体を振る。その様子がおかしくて仕方がないのだ。会心の当たりを放ったバッターが打球を見送るそぶりとも似ているとも思う。取材関係者によると、この大会はNHKに生中継されているせいもあってか!?これでも動きはいたって控えめだそうで、もっと大きくリアクションするというからさらに驚いた。打った後にクラブと体を振る動きは、ティーショットだけでなくグリーン上でもやっていた。
日本ゴルフツアー機構のホームページを見てみると、なんとこのフォームが独学だと書いてあってまたまたびっくり。経歴も起伏に富んでいる。韓国の水産高校を卒業後に一度は地元の水産加工会社に就職。20歳の時にはマグロの解体作業中に右手親指の一部を切り落とす事故にあう不運もあったという。クラブを握ったのはゴルフ場に勤務し始めた25歳からというから、その人生まで独特だ。この崔選手、愛嬌(あいきょう)も抜群で、ゴルフ界では「虎さん」の愛称で親しまれている。ギャラリーはもちろん、私たちカメラマンにまで笑顔で接してくれる。朝一番にコースでティーショットを撮影したあとに「おはようございます」と声をかけてくれることも多く、初めて声をかけられた時には、こちらがびっくりして口ごもっていると、「声がちいさいなあ」と言って満面の笑みを見せてくれたこともあった。
今大会で同組となったベテランの藤田寛之プロや武藤俊憲プロといったまじめな選手たちも「虎さん」の前では笑顔を連発。いるだけでその場を和ませるその存在感に、カメラマンとしても大変助けられた。外国人選手のため、残念ながら日本のメディアに登場することは少ないが、ぜひ現場で、テレビで、「見て」ほしい選手だ。“おとなしい”選手が多い男子ゴルフツアーに楽しみが増えた。(記者コラム・写真部 泉 貫太)