女子ゴルフの20年東京五輪出場権は、来年6月30日時点の世界ランクを基準にした五輪ポイント上位2人が獲得する。世界ランク5位で日本勢1番手の畑岡奈紗(20)は当確で、27位の鈴木愛(25)、47位の比嘉真美子(25)、60位の成田美寿々(26)ら8人の五輪強化指定選手らが逆転を狙う。4人は世界ランク獲得ポイントの高いメジャー・全米女子オープン(30日開幕・サウスカロライナ州チャールストンCC)に出場。08年賞金女王の古閑美保さん(36)は強化指定選手の特徴を語った。
◆畑岡奈紗(世界5位)代表決定的!金へ「気合」
昨季畑岡は米ツアーで2勝を挙げ、今季も起亜クラシックで米通算3勝目を飾った。世界ランクは日本勢トップの5位まで上昇し、五輪出場権獲得は決定的だ。五輪まで1年余り。金メダルを目標に掲げる20歳は「あっという間だなという気持ち。去年のようにランクを上げたい。また、今季の成績で(状況が)変わってくるので、特に今年1年は気合いを入れて臨みたい」と力を込めた。
オフには日本ゴルフ協会(JGA)が宮崎で開催した合宿を訪ねた。体を作る栄養学の講義を受講し、収穫を得た。
ナショナルチーム時代の恩師・アマチュア日本代表のガース・ジョーンズ・ヘッドコーチ(47)=オーストラリア=は畑岡をこう評す。「奈紗は攻めるゴルフができるのがいいところだね」。日本のエース・畑岡も「オリンピックに出場したら、自分らしく思い切ったプレーをしたい」と、夢舞台での活躍を誓った。
古閑さん「体は小さいけれど引き締まっていて、きちんとトレーニングをしていることが分かります。日本人の中では抜けた存在でしょう」
◆鈴木愛(世界28位)アスリート仲間と夢舞台で再会約束
鈴木は今季、ヨコハマタイヤPRGRレディスで節目の通算10勝目を挙げた。現在は五輪圏内の日本勢2番手につけているが、守りに入る考えはない。
昨秋に右手首痛で約2か月間の離脱を経験した。その間、東京・北区の国立スポーツ科学センター(JISS)でリハビリを行った。バレーボールやスキーなど、ゴルフ以外の他競技の選手と交流。連絡先も交換し「オリンピックにみんなで出られたらいいね」と、夢舞台での再会を約束し合った。
17年に2勝を挙げ、自身初の賞金女王に輝いた。18年は前半戦で4勝を挙げるも、右手首のけがによる離脱が響き、賞金ランクは3位に終わった。2年ぶりの女王奪還に向け、「年間5勝を達成することと、また賞金女王になりたい」と話す。
26歳で迎える東京五輪に向け「年齢的にも一番いい年。出られるように照準を合わせていきたい」と気合十分。同世代のトップアスリート仲間との再会へ、ギアを上げていく。
古閑さん「練習量とパットのうまさは日本一。海外では結果を残せていないけど、五輪は日本のコースなのでチャンスはあると思います」
◆比嘉真美子(世界49位)食への意識高まり逆転切符へ体作り
東京五輪への思いを聞かれた比嘉は「もちろんあります」と即答した。昨季は自己最高の賞金ランク4位と躍進したが、KKT杯バンテリンレディスの1勝止まりで悔いが残った。今季は地元での開幕戦・ダイキンオーキッドレディスで優勝。
「(五輪について)夢で終わるのでなく、自分のものにしたい。私のランキングではまだまだ届かないので、今年と来年の序盤で勝ちまくらないといけない」と燃えている。
4月に海外メジャー第1戦、ANAインスピレーションに出場。だが、7オーバー82位で悔しい予選落ち。海外メジャーでは18年の全英リコー女子オープンの4位が最高。30日開幕の全米では日本女子42年ぶりのメジャー制覇を見据える。
オフは体作りに励んだ。2月に東京五輪強化指定選手として宮崎合宿に参加。栄養士から「米、フルーツ、乳製品を取ること」とアドバイスされ、食への意識が高まった。ジュニア時代には男子の松山英樹(27)らとナショナルチームでともに活動した経験もあり、日の丸への思いは人一倍だ。「チャンスがあるなら、全力でつかみに行く」と逆転での切符を狙う。
古閑さん「飛距離の出るドライバーに加え、アイアンの精度も高く爆発的なスコアが出ます。グリーンが硬くなるほど力を発揮できる選手」
◆勝みなみ急上昇、今季2勝で世界ランク95から46位へ
勝みなみ(20)=明治安田生命=は今季2勝を挙げ、五輪代表争いに絡んできた。昨年11月末の世界ランクは95位。次点の9番手で強化指定選手から漏れたが、今年5月にパナソニックレディースを制すと、中京テレビ・ブリヂストンレディスで2勝目。世界ランクは日本人5番手の54位から、さらに浮上予定で自身初メジャーとなる全米女子オープン切符も獲得した。
14年4月のKKT杯バンテリンレディスを15歳293日の史上最年少で優勝。当時から「東京五輪に出たい」「金メダルを取りたい」と言い続けてきた。同年8月には東京五輪会場の霞ケ関CC東Cで行われた日本ジュニアで初優勝。来年、同じ会場で再び金色に輝くメダルを取りに行く。
古閑さん「日米での経験が豊富で、物おじしない精神力が魅力。地元への思いが強く、日本開催の五輪は重圧を力に変えられるでしょう」
◆成田美寿々(世界63位)ポイント日本の倍の海外で大ジャンプ
成田は6番手から悲願の五輪切符を目指す。2012年の富士通レディースで初優勝を挙げて以来、「オリンピックで金メダル」という夢を追い続けてきた。
112年ぶりに五輪種目に復帰した16年リオ五輪は10番手で落選。今季は4月のヤマハレディースで通算12勝目を飾った。全米女子オープンでは「海外メジャーで結果を残せるように」と意気込んでいる。世界ランクの獲得ポイントが国内ツアーの2~3倍とも言われる海外メジャーで上位に入れば、大幅なジャンプアップが可能だ。
オフは飛距離アップを目指して1月中旬から約3週間、米パームスプリングスで合宿を張った。120キロの重りでのスクワットから、軽いもので振る練習などをこなしてパワーアップ。ヘッドスピードは秒速1・5メートル増の44・5メートルへと成長し「飛距離は5ヤード伸びた」とうなずいた。
今季の目標には、昨季自身が挙げた3勝を上回る「年間5勝」を掲げる。その理由は賞金女王よりも、何よりも、五輪のため。「今年ダメなら出られないのは分かっている」。夢舞台への思いは人一倍だ。
古閑さん「日頃から研究熱心で、技術的にも日本ではズバ抜けた存在。全てがかみ合った時は世界でも通用するポテンシャルを秘めています」
古閑さん「飛距離があってアイアンもうまく総合力が高い。まだ優勝はないですが、1つ勝てば自信がついて安定感に磨きがかかるでしょう」
古閑さん「ショットが曲がらないのが強み。メジャーに強いイメージがあって、難しいセッティングになるほど上位に行けるタイプです」
古閑さん「経験は浅いものの一発の怖さを持っている選手。性格も天然系なので、勢いに乗ったら一気に化ける可能性を秘めています」
◆男子は松山が一歩リード
男子は来年6月23日付の世界ランクを基にした五輪ポイント上位2人が出場権を獲得。米ツアー通算5勝の松山英樹(27)=LEXUS=が日本勢トップの32位と頭一つ抜けている。昨季の国内ツアー賞金王・今平周吾(26)=フリー=が75位で2番手、米ツアーを主戦場とする小平智(29)=Admiral=が84位の3番手で追っている。
132位の星野陸也(23)=フリー=、141位の池田勇太(33)=フリー=、148位の川村昌弘(25)=antenna=、151位の時松隆光(25)=筑紫ケ丘GC=らも今季複数回優勝を果たせば、2枠目に滑り込む可能性は十分にある。腰痛で離脱中の石川遼(27)=カシオ=は253位で厳しい状況となっている。
◆開幕前に「食」「体」「心」学ぶ
今季開幕前、強化拠点施設のフェニックス・シーガイアリゾート(宮崎)で行われた合宿では栄養学、トレーニング、心理学について、各専門家を招いて講義が実施された。1泊2日で参加した選手の関係者によると、それぞれ2時間ずつ程度で「行ったかいがすごくあった」と充実した内容だったという。
栄養学では、食生活や試合中の食べ物に関して栄養士からレクチャーを受けた。バランスよく食べることはもちろん、体力維持のために白米など炭水化物を摂取する重要性を再確認した。同関係者は「吐いてでも食べるように」という言葉が印象に残っており「こんなにたくさんの量を食べないといけないのかと驚いた」と明かした。
トレーニング面では、まず体力を測定し現状把握からスタート。改善点がフィードバックされ、どの部位を鍛えるべきかドリル形式で筋トレや体幹強化の日頃の練習に生かしていくという。機械を装着してスイングチェックも行われ、アプローチの指導も受けた。
心理学では専門家と選手の2人だけで話をした。「どんな心理でゴルフをしているか」といった内容だったとみられる。専門的なプログラムによって、選手の実力の底上げが図られている。強化選手は合宿のほか、拠点でのラウンドや宿泊が無料になるなどの特典が与えられている。
◆ゴルフ東京五輪への道
男子は20年6月23日、女子は同30日時点の世界ランクを基準に算定する五輪ポイント上位60人が出場権を獲得。〈1〉同ランク15位以内は各国・地域で最大4人〈2〉16位以下は〈1〉の有資格者を含み最大2人が出られる。男子は20年7月30日から、女子は同8月5日から、ともに4日間、埼玉・霞ケ関CCで72ホールストロークプレーの個人戦で競う。