田中名人のゴルフが変わった。ドライバーの飛距離が伸び、グリーン周りのアプローチは神業(かみわざ)だ。元々、グリーン上、こんなところから入れるか、という下りの10メートルや、どう寄せるか、という複雑なスネークラインをドカンと真ん中から放り込む、意外性を持ったゴルファーだが、さらに進化している。グリーン周りの冴えという点に絞るとショートアプローチにプラス、100ヤード以内のショットが以前をはるかにしのぐ精度が加わって、どこからでも乗せる。いや、寄るのだ。精度が高まったためピンチをしのげる。パー5の3打目や距離の短いパー4ホールがチャンスに結びつき、バーディーがでるからスコアが安定する。
そうだ、ドライバーの飛距離についても、精度が高まっているため、自信をもってペナルティ―サイドへ打っていける。逃げずに攻めれば、結果的に飛距離は伸びる。ゴルフがまた一段、違う世界へ入った。
令和2年の今年、エージシュートの月間達成数は1月6回、2月10回、3月、4月はそれぞれ20回ずつの計56回を記録した。冬シーズン、これまでの最高記録、2018年の23回を倍増。大変な伸びである。進化が始まっているといっていいだろう。
それまで1打に泣いてエージシュート失敗というのが年間で4、50回はあった。「増えるのは予想できた。しかし、85歳になってから年令ハンデの恩恵に浴したのは3,4月の2か月で4回だけだった。いずれは力の及ばない衰退期が来るのだろうが、チャンスを生かす量産にチャンス到来。85歳の今季は700回達成が最大目標です」カサにかかって張り切っているが自信がそうさせるのだ。
“回数ばかりにこだわるのは危険、賛成できない”と俗人の筆者は“あまりプレッシャーをかけずに。気楽にいきましょう”などいらぬことをいいたくなるが、そんなことは百も承知の名人である。
「誕生日を境にハンデが1つ上がるから、それまで1打に泣いたスコアも生きてくる。エージシュートのだいご味だ。年を取ると元気になれる。気持ちが楽になるし、余裕があるからリラックスしてプレーできる」。
“俺はそんな柔(やわ)じゃありませんよ”とばかりに、こんなことを言うのである。
「ゴルフが上手くなりたければ年寄りとゴルフをやりなさい」「難しいクラブで徹底訓練。さすればゴルフは易しくなる」-公言してはばからない名人である。次回からその真髄に触れてゆく。エージシュートへの道の指南である。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。85歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。