驚異のエージシューター田中菊雄の世界131 武藤一彦のコラム


 20年6月17日、東京よみうりCCの10番ティーから男3人と女性1人のグループが静かにスタートを切った。男性陣はいずれも銀髪がキャップからのぞく老ゴルファー、女性は体格で劣らずティーショットを一閃するとゆうに240ヤードを飛ばして平然。すぐにプロゴルファーとわかった。4人はゆるい打ち上げのパー4の難ホールをアマは手堅くボギーで、プロはさらりとパーで行く姿はいずれ劣らぬ熟練者、手練れものの風格が周辺に漂って一服の絵をみるようであった。こうして同組で2人のプレーヤーがエージシュートを達成するという夢のような出来事は始まった。6月、わがエージシュート名人、田中さんのうえに実際に起こったことの顛末。聞いて驚くな、いや読んでびっくりの一部始終、ゴルファーが見る夢物語の始まりだった。

 

 4人は最高齢、85歳のわが田中名人を筆頭に77歳の西内照雅さんらでいずれも当コースのメンバー。女子プロはコラムでもおなじみ、エージシューター田中さんの指南役を務めるトーナメントプロ、浪崎由里子さん。実はこの日は田中さんの挑戦ラウンドに付き合ってのちょっぴり緊張したラウンドだった。
 使用ティーは白ティーと短めながら男子ツアーのゴルフ日本シリーズJT杯でおなじみの難コースをさらりと好スコア。ハーフを終わって田中さんが41と好スコア。後半を44以下なら85でエージシュート確実と好調。そして西内さんが1バーディー、2ボギーの37で回ってきたから大変な騒ぎとなった。
 西内さん、田中さんのお愛弟子である。日頃、コースの先輩でハンデキャップ委員長、その上、エージシュートを連発する田中さんの8歳下。深く傾倒し「私も一生に一度はエージシュートをやってみたい」とエージシュート挑戦を公言。この日は一緒に回る、緊張の日だった。西内さんの調子は午後も衰えず、2番バーディー、7番ボギー。最終9番、3打目をグリーン奥の木の根元に打ち込むなどダブルボギーをたたき38の75。待望のエージシュート達成は、77歳の年令に2アンダーの快挙となった。

 

 30歳代のころ静岡・愛鷹カントリー倶楽部のハンデ2、クラブチャンピオンにも輝いた。が、40歳を過ぎてショットのバックスイングで手が上がらなくなるイップスや右手人差し指の腱を切断する大けがなどでコースハンデは14と低迷(?)。「最近はよみうりCCのシニアなどの競技に週イチ(週一回)で出るくらい。これではいけないと田中さんに弟子入りしたが、「このトシで、75で回れるとは思いもしなかった」と感無量だった。目標の田中さん、女子プロの浪崎さんと一緒に回る緊張感がプラスに働いたようだ。「プロからバックスイングで右肩を引いてみたら?といわれ心掛けたら手が久しぶりにスムーズに動いた」”おかげさまで“と謙虚。一気に夢がかなって「エージシュート?いやもう私はこの1回でいい」と友人たちに配るエージシュート記念のボールを発注した。

 

 田中さんもさすがだ。午後40でまとめ6月にはいって17回目のエージシュート、通算で591回目を達成した。だが、この日ばかりは西内さんの快挙に我を忘れて興奮。「2バーディー、3ボギー,1ダブルボギーの75。西内さん、ここのところ90近くたたいていた人が突然プロ並みのスコアだ。こんなこともあるからゴルフは楽しい、興奮した」ホールアウト後、西内さんのスコアカードにアテストのサインをするという初めての経験も新鮮だった。「自分以外の人がエージシュートをやるのを見るのは初めてだったからね。おどろきだったし、うれしかった。見たことがなかったですからね」―自分の591回より他人の初快挙。「他人事ながらほんとにうれしい」とはしゃいだ。
 ゴルフは何が起こるかわからない、といわれるが、エージシュート、何が起こってもおかしくない世界。1グループで2人が同時にエージシュートする快挙はあるようでない貴重な出来事。手元の資料では同組で2人というのは見当たらない。世界は広い。ないことはないのだろうなあ、と思うが、なかったらギネスブックものだと期待している。

 

 「驚異のエージシューター田中菊雄の世界」(武藤一彦著)は昨年末、報知新聞社より出版されました。購入をご希望の方は一般社団法人「日本エイジシュートチャレンジ協会」(田中菊雄会長)TEL:044-822-6308まで。定価1500円。同協会ではエージシュートを目指し高齢化社会に積極的に関与するゴルファーを育成し、エージシュートによる競技会や達成者の認定、表彰などでゴルフの発展に寄与し、元気で長生きな健康社会を目指します。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。85歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。