2週前の国内男子ツアー、プレーヤーズチャンピオンシップ・サトウ食品で谷原秀人(国際スポーツ振興協会)が24歳年下の20歳の長野泰雅(福岡地行)とのプレーオフの末、通算18勝目を挙げた。選手会主催大会を選手会長が制して話題を集めたが、東北福祉大卒業生としても男女国内外のツアー通算100勝目の勝利となった。
同校によると、男女プロのトップツアーでは、2021年マスターズを含む米ツアー8勝の松山英樹(LEXUS)、アジアンツアー1勝の金谷拓実(Yogibo)も含めると、谷原のこの日の1勝が節目の数字となったという。
東北福祉大ゴルフ部は1989年に同好会として創部。阿部靖彦監督が就任し、仙台市内で練習やトレーニング、指導者、寮などの環境面を整えて、次々に有力選手を育てて全国屈指の強豪へと成長していった。これまでに全国大会優勝45回以上、60人以上もの男女ツアープロを輩出してきた。
2003年5月の男子ツアー、中日クラウンズでアマチュア52冠の星野英正が初優勝をつかんだのが、東北福祉大ゴルフ部としてのツアー初制覇だった。その後、男女ツアーを席巻。女子では佐伯三貴(現東北福祉大ゴルフ部コーチ)が7勝、原江里菜(NEC)が2勝を挙げた。
本格的なゴルフ経験はなく、野球部で捕手だった阿部監督の「ツアーに出ればアマチュアもプロも関係ない。優勝を目指せ」という熱い指導もあり、男子では松山、金谷、蟬川泰果(フリー)が大学在学中にアマチュア優勝の快挙を遂げた。東北福祉大勢が着用する赤黒のウェアと最終日の黄色と白いウェアは、代名詞としてゴルフファンの間にも定着していった。
男子の国内4つのメジャーは9人で計15勝。13年の松山、16年の池田勇太(フリー)、17年の宮里優作(フリー)、昨年の比嘉一貴(フリー)と4人の日本ツアー賞金王も輩出した。20年で男女16人で計100勝を積み上げた形となった。「いつの時代も挑戦する気持ちが大事だと学生たちには言い続けてきましたが、まさかうちの卒業生たちが、プロのツアーで100勝もできるとは思ってはいませんでした。卒業生たちの鍛錬のたまものです。とても喜ばしいですね」と阿部監督は感慨深げに振り返った。
大学ゴルフ界では、1970年代から多くのプロゴルファーを輩出した名門・日大ゴルフ部が長きにわたって君臨してきた。ともに永久シード保持者の片山晋呉の通算31勝、倉本昌弘の同30勝。さらに、米ツアー3勝に日本ツアー10勝の丸山茂樹、国内4勝の堀川未来夢ら通算200勝近くを積み重ねている。今回の東北福祉大のツアー100勝は、日大に次ぐ数字となった。この10年間で、男子ツアーの選手数は東北福祉大卒業生の方が日大勢よりも多くなっている。阿部監督は「うちは日大さんに追いつけ、追い越せでずっと頑張ってきました。大阪学院大さんも強くなってきて近年、アマチュアや学生ゴルフも白熱してきています」とライバル校の存在が強豪校への原点だったことを明かした。
東北福祉大は在校生にも、21年のアジアパシフィック女子アマチュア選手権&23年オーストラリアアマ選手権を制し、オーガスタナショナル女子アマチュアにも出場した橋本美月(3年)、昨年の日本アマチュア選手権王者・岡田晃平主将(4年)ら将来有望な選手がそろう。「松山が世界アマチュアランク1位になって、11年のマスターズでローアマを取って。21年のマスターズで優勝で、日本人でも世界と戦えるということを示してくれた。それを見て、金谷も世界アマランク1位になってアジアで勝って、蟬川はアマチュアで国内初の2勝。『あの先輩達のように強くなりたい』という空気はいまも部内にありますね」と指揮官も感じている。
次なる20年に向けての目標は明確だ。「コロナ禍も落ち着きましたし、これからの子達にはどんどん海外に挑戦していって欲しい。世界を目指すことで、きっと日本でも勝つことができるようになると思う。『国内で賞金シード選手になれればいい』という甘い考え方では、厳しいプロの世界では通用しない。今や1ドル145円の時代です。アメリカや海外ツアーで活躍したらどれだけ稼げるか。けがや不調もありますし、プロ生活は決して長くはないですから、どれだけ稼げるか。しっかり職業として考えて取り組まないといけません」と、海外ツアーでの白星を卒業生たちが数多く積み上げることに期待を寄せている。
その一方で、指揮官の指導方針の根底は20年前と変わらないという。「どの選手も一流のプロゴルファーになれるわけではありません。ツアーで活躍できるのは一握りの人間です。卒業生が社会に出て、どう生きていくかが大切なのは昔も今も変わりません。大学生なので一人、一人を尊重しながら自分で考えて取り組ませないと。学生たちには『人として成長する大学4年間にしなさい』と言い続けていますよ」。ゴルフの技術よりも、学生の人間性形成の指導に重きを置き続けている。
◆東北福祉大卒業生のトップツアー100勝
▽男子
〈1〉池田 勇太 21勝
〈2〉谷原 秀人 18勝
〈3〉松山 英樹 16勝(米ツアー8勝)
〈4〉宮里 優作 7勝
〈5〉比嘉 一貴 6勝
〈6〉岩田 寛 5勝
金谷 拓実 5勝(アジアンツアー1勝)
〈7〉蟬川 泰果 3勝
星野英正 3勝
〈9〉谷口 拓也 2勝
藤本 佳則 2勝
〈11〉藤島 豊和1勝
小林 伸太郎1勝
片岡 尚之 1勝
▽女子
〈1〉佐伯 三貴 7勝
〈2〉原 江里菜 2勝