男子ゴルフの松山英樹(31)=LEXUS=が17日までにスポーツ報知の単独インタビューに応じた。メジャーの2021年マスターズ制覇など、アジア勢最多タイの8勝を誇る第一人者は、米ツアー本格参戦の10季目となった節目のシーズンを終了。パリ五輪が控える来年だが「五輪よりメジャー」のスタンスは変わらず。来季への決意として改めてメジャー2勝目を掲げた。今季は国内で20代の躍進が顕著。世代交代が加速する中で「トップを譲るつもりはない」とエースは言い切った。(取材・構成=高木恵、岩原正幸、富張萌黄)
―米ツアー本格参戦10年目のシーズンが終わった。
「悔しかった。最終戦のツアー選手権出場が9年で途切れて、優勝もなかった。なかなか思うようにいかなかった」
―ツアー選手権は大きなモチベーションだった。
「1年目から出場したし、行って当たり前みたいな感覚でいた。自分にもプレッッシャーをかけてやってきた。優勝できない期間もそこだけは継続していたし、唯一評価できる部分だった。また継続させていきたいけど、1回途切れたので楽にはできる。そこだけじゃないっていうところを見せれるように頑張りたい」
―プレーオフ初戦は最終日終盤の猛チャージで第2戦に滑り込んだ。
「伸ばさなかったらシーズンが終わるだけだと思っていた。シカゴ行き(第2戦はイリノイ州)の飛行機を取っていたので、落ちたらそのまま日本に帰ればいいかなっていう気持ちだった」
―第2戦は第2ラウンドスタート前に背中痛で棄権。葛藤はあったか。
「ツアー選手権に行きたいっていうのはあった。でも、首を怪我してから、ちょっと無理したせいでずっと悩まされたものがあったから。もしこの背中でまた悩むようなことがあったら、面倒だなと。(格上げ大会のシグネチャー・イベントに出られる)50位以内に入れたこともあったし、案外スパッとやめることができた」
―予選落ち4回、トップ10が2回。数字だけなら今までで一番苦しいシーズンにも見えるが。
「苦しかったけど、2018年はもっとつらかった記憶がある。ダメージは今年の方が少なかった。18年はゴルフもメンタル面も、何もかもがつらかった。言葉には表せられないくらい」
―最近は首痛や背中痛を抱えながらの転戦が多かった。昨季と比べて体調面は。
「良い状態になってきていると思う。ZOZOチャンピオンシップとダンロップフェニックスでは、体を気にすることなく練習ができた。これが連戦になった時、どうなるか。年明けからそういうふうにできれば」
―来年パリ五輪が控える。過去の五輪では米ツアーを主戦場とする有力ゴルファーの辞退が目立った。現時点での位置づけは。
「今はまだ何も考えていない。メジャーの方が大事です、本当に。僕にとってはメジャーの方が大事だし、シーズンの方が大事」
―五輪ランキングは日本勢トップで、資格を有することは間違いない。16年のリオ五輪は辞退したが。
「今はまだ考えていないけど、シーズンの成績によっては日本人トップだったとしても考えることはある」
―そのメジャーでは13年以降、出場41戦中34戦で日本勢最上位だ。期待を背負うことについて。
「年齢を重ねていって、下が出てくれば勝手に注目はそっちに行くようになるんだろうけど。どうなるか分からないし。やっぱりまだまだ勝ちたいし、メジャーでも。期待されるということはうれしいことだし、頑張りたいという意識でいる」
―プレッシャーに苦しむことはあるか。
「(日本人として)一人で出ることもあった。その時は予選落ちはしたくないし、上位に行きたいという気持ちが強かった。誰か他に出ているときは、たとえ優勝できなくても、その中で絶対にトップでいたいという気持ちが強い。トップを譲るつもりもない。ただ、期待をそっちにかけてもいいんじゃないかな? と思う時もある」
―それはどういう時。
「『優勝の可能性は?』って、(中島)啓太とか金谷(拓実)に聞くのもありなんじゃないかなと思う。メディアの皆さんは他の選手にそういう質問をしない。プレッシャーかけてやったら、うまくいく子もいる。『優勝します』だけでもいいじゃないですか。彼らたちが頑張ってくれれれば」
―優勝した21年マスターズ。最終日の後半に日本人メジャー初Vのプレッシャーを感じた時に、後輩たちにこの重圧をかけたくないという思いがよぎったと。
「なんか、勝てないことを『日本人だから』って言われることがすごく嫌だった。それを突破するのは自分だと思っていたんだけど。でももし、このまま勝てなくて、これを下の子たち、今でいう金谷(拓実)とか(中島)啓太とかが背負うってなると、かわいそうだなと思った。嫌だなと思った。自分が勝ちたいからって思っていたんだけど、人なんか関係ないと思っていたんだけど。でも、そういうふうに思っちゃったので。なので、そういう若い選手たちはメジャー2勝目、3勝目の時のプレッシャーを自分たちで作って、みたいな。それは来年、僕が先に作っているかもしれないし、そうなるように頑張るつもり。他にメジャーは3つあるので『日本人初』って全部につくんだろうけど。そのプレッシャーを、一つでも減らしてあげたいなと思っている」
―他のメジャーと比較すると苦手と言われてきた全英オープンで、13年の6位に次ぐ13位。今回の全英で何かつかめたものがあったのか。
「自分の状態が悪すぎて。悪いながら、どうしようかなーと思いながら、なんとなーくやったらあそこだった。なんか、そういうゴルフでもいいんだ、というのはちょっと思った。(フェデックス)ポイント的に稼がないといけなかったので、もちろん真剣には打っているんだけど。なんか、そういう遊び心も大事なんだなーみたいな」
―秋に日本で2試合に出場した。大勢のギャラリーがついて回り、声援を送った。
「やっぱり嬉しい。そこでいいプレーができなかったことは残念だったけど。次に日本でやる試合の時には、もっといいプレーができるようにしたい」
―若手は皆、松山を目標に世界を目指している。ダンロップフェニックスでは杉浦悠太が優勝。日本ツアーで3年連続でアマチュア優勝が出ている。
「勝つことって、そんなに簡単なことじゃない。勝ち切れる力がある、ということがすごいこと」
―プロゴルファーは他の競技と比べて選手寿命が長い。その中でモチベーションの維持の仕方を難しく感じることは。
「それを上の先輩に聞きたいなって思っている。ずっと聞きたかったんだけど、聞けていない。20代の頃との違いを、やっぱり試合中に感じることも多々ある。今までやってきたことで、自分の中ではもうダメだなというところもあるので。どういうふうにしていけばいいかなあ、というのを。アドバイスじゃなくて意見を。どういふうにやってきたのかな、というのを聞いてみたい」
―黒宮幹仁コーチの存在は。
「中1の時に初めて会ってからのつきあいなので、まあ、分かってますよね」
―助けられる部分は多い。
「じゃないとコーチしてないですよ!(笑い)」
―今季2人で積み上げて来られたものは。
「それは今季限りじゃなくて、コーチと選手でやっていく以上は、ずっとそういう関係だと思っている。そりゃあ、ぶつかる時も来るだろうけど、それってゴルフをうまくいかせるためのものなので、別になんとも思わないし。ゴルフを離れれば友達だし」
―やはり少しでも上手くなりたい、勝ちたいという思いは揺らがず。
「そうですね。ただ、いま言えるのは下手くそだなと。今年に限っては、めちゃくちゃ下手くそでしたよね。来年は『普通』ぐらいに戻りたいですね。ふふふ」
―来年はどんな1年に。
「いいシーズンを送りたい。9勝目、10勝目をしたい。それがメジャーを含められたら最高。10に行くためには9がないと。早く次の1勝を挙げるために、(来季開幕戦の)セントリーと(第2戦の)ソニーオープンはすごく大事になってくる」
◆松山の2023年 メジャーは2年ぶり制覇を狙った4月のマスターズで16位。5月の全米プロ選手権は29位、6月の全米オープンは32位、7月の全英オープンは13位。背中痛で棄権した8月のBMW選手権で22―23年シーズンを終え、年間ポイントランクは50位。10月のZOZOチャンピオンシップ(千葉)は51位。11月のダンロップフェニックスは10位だった。
◆ゴルフのパリ五輪代表 男女各60人、計120人が出場。男子は来年6月17日、女子は同24日時点の世界ランクを基にしたオリンピックゴルフランキング(OGR)で決まる。日本からは男女各2人の出場が見込まれる。現状、男子は松山が43位で最上位、久常涼が79位で2番手につける。
◆松山と五輪
▽16年リオデジャネイロ大会=出場辞退 ゴルフが112年ぶりに競技に復帰。開催を約1か月後に控えた同年7月、治安とジカ熱への懸念などを理由に辞退を表明。
▽21年東京大会=4位 本大会は4日間を通算15アンダーで終え、銅メダルをかけ7人のプレーオフへ。1ホール目でパーをセーブできず4位。