国内男子プロゴルフツアー今季最終戦のメジャー、日本シリーズJTカップは11月30日から4日間、東京・稲城市の東京よみうりCC(7023ヤード、パー70)で行われる。2年連続14度目の出場となる2015、19年大会覇者の石川遼(32)=カシオ=が開幕を前に、スポーツ報知の単独インタビューに応じた。史上7人目となる大会3勝以上をかけ、第60回の記念大会を戦う。(聞き手・高木 恵)
―今季ここまでを振り返って。
「心技体という面でいくと、メンタル的な部分で収穫があった。技術は常に最初に僕の中に来る。今までは技術9割、体と心が5%ずつくらいの感覚でやっていた。今年に入って、メンタルと技術というところがしっかりつながっているというのを初めて認識したところがあって。メンタル面は4日の間に必ず波があるが、心が下がっても常に一定の自分の技術は信用して、それを発揮するということはしなきゃいけないよねというところを今年気づけた」
―今はどれくらいのパーセンテージに?
「心が30%ぐらい、いっている感覚は自分の中である。技術50、心30、体が20ぐらい。今年は痛みやけががないままシーズンをここまでやってこられたことは大きかった」
―昨年まで首痛や腰痛を発症することもあった。対策を?
「今季から金田トレーナーと契約して、見てもらっている。今年は一度トレーニングの負荷を落として、まずはベースとなる体幹部分や股関節の可動域だったりを中心にコンディショニングをしようと。オフから来年に向かってトレーニングの負荷を上げていくように提案された。今年はウェートトレーニングはゼロ」
―毎試合のように優勝が期待される。理想のスイングづくりに取り組んでいる中で、結果との兼ね合いはどう捉えている?
「『急がば回れ』という言葉がある。『急がば回るな』と僕はずっと言っていたけど。結局、パッて見たときに遠回りをしているように見える作業が、実は最短だったっていうこともあると思う。将来の自分の目標というか、ゴールに向かっての最短ルートを行くための今、という感じ。結果を出すために、結果を最優先で求めない日もある。結果を出したいから、結果を出したいと思う日々を過ごすというよりは、結果を出したいからこそ、結果を二の次にしないといけない日も出てくる。そういう考え方をしているだけ。最終的には、狙って結果を出せるっていうところが最強。勝ちを狙って勝ちというよりは、しっかり勝ちを狙って上位にいるというところが最強なんだろうなと思う」
―2位だった日本オープンの涙。一言では表せない感情だったと思うが。
「めちゃくちゃきつい瞬間もあったし、つらい瞬間もあったけど、それと向き合って一打一打乗り越えていったっていう4日間だった。だからすごく、やり切った感は本当にあって。でもこう、うれしさはなくて。やっぱり、悲しさと悔しさが、ほとんどだった。やり切ったけど、うれしくはないというか。充実感というよりは、なんか、負けた悔しさなのかなあ…。分からないけど。4日目は良かったけど、それまでの3日間で『やっちゃったー』みたいな悔しい瞬間がけっこうあったから。その4日間をトータルで見たときの感情」
―15、19年優勝の日本シリーズJTカップは今年60回の記念大会。どんな石川遼を見せたい?
「自分が楽しいからゴルフをやっているし、自分を高めたいと思っている瞬間が好きでゴルフをやっている。自分が納得できる自分になるためにやっているという感じかな。それが人の目にどう見えているかは分からないし、コントロールもできない。懸命にゴルフをやっている。楽しく没頭してやっている。強いて言うなら、そんな姿かな。他の選手とは違うし、他の選手も他の選手とは違う。みんなが唯一無二。だから胸を張って、唯一無二のゴルフを見てもらいたいとも言える」
―7人目の大会3勝がかかる。シリーズ男と呼ばれることは?
「そういうふうに言われることは、すごくうれしいこと。1回も勝っていなかったらそうは言われないわけだから。ただ、満足はしていない。今の自分の状態に満足していないし、日本シリーズ2勝っていうのも、満足する数字ではない。勝てるチャンスがあったら勝ちたいというところ」
◆石川のスイング改造 2020年春からデータ統計学にたけた田中剛コーチに師事し、取り組んでいる。以前に比べてバックスイングはゆったりとし、トップ位置がコンパクトに。「高い再現性」を求めてのもの。「パー5のバーディー率を高める」などコースマネジメントも見直した。
◆石川の優勝VTR
▼15年大会 初日を68で、首位と4打差の9位スタート。2日目も68で首位に並んだ。3日目にショットを思い切り振りちぎりベストスコア63をマーク。3打差で単独首位に立つと、最終日も6バーディー、3ボギーの67で回って通算14アンダーで通算13勝目。通算24度目の挑戦で国内メジャー初制覇となった。
▼19年大会 初日を68で、首位と3打差の8位で滑り出すと、3日目に68で2打差の5位と追い上げ、最終日に7バーディー、3ボギーの66で通算8アンダーで並んだB・ケネディ(豪州)とのプレーオフへ。3ホール目で2・5メートルのバーディーパットを決め、15年以来の大会2勝目。
◆石川の今季成績 日本ツアーは20試合に出場し、最高成績は10月のメジャー第3戦、日本オープンの2位。トップ10入りは6度記録。米ツアーではメジャー第3戦、全米オープンに出場し、63位。10月のZOZOチャンピオンシップでは、日本勢最高の4位に入った。賞金ランクは27日現在、10位。
【取材後記】ミスで崩れない強さ
今季の石川は一つのミスから崩れていくことが減った。日本勢最高の4位に入った10月の米ツアー、ZOZOチャンピオンシップ最終日。8番までに首位と2打差に迫りながら11番でボギー、12番でダボ。そこから気持ちをすぐにニュートラルな状態に戻すことを意識。14番から3連続バーディーで息を吹き返した。「悪い流れになってから戻してくるみたいなことが、今までより圧倒的にできるようになった。それはメンタルに左右されていないということ」。72ホール中の全ての一打を切り離して考えつつ、その日の調子や流れにも向き合う。それこそ石川が言う「技術とメンタルのつながり」であり、今季の大きな収穫だ。(ゴルフ担当・高木 恵)