”こうあるべき”は古い 渋野が私の固定観念を覆した


ワールドレディスサロンパスカップで初優勝し、選手から水をかけられ祝福された渋野日向子

ワールドレディスサロンパスカップで初優勝し、選手から水をかけられ祝福された渋野日向子

 久々の出会いだった。固定観念を覆すアスリートが現れた。「スマイルシンデレラ」こと渋野日向子。まさに、ニュータイプの日本人だ。

 ツアー初優勝を果たした5月のワールドレディス・サロンパスカップを取材した。よく笑い、記者の質問に快活に応える姿は好感度満点。取材を終えた記者たちは「気持ちいい選手だね」と声をそろえた。笑顔の伝染は、見ていて気持ちがいい。迷いなく、テンポがいいプレーも気持ちがいい。

 全英女子オープンは驚きの連続だった。12番パー4。1オン狙いのドライバーを、ビックリするほどしっかり振り抜いた。首位に並んで迎えた16番の第2打地点では、お菓子を食べながらカメラ目線でニッコリ。優勝がかかった18番は、5メートルのスライスラインスを迷いなく打ち切った。

 サロンパスカップでも、よく笑っていた。さすがにサンデーバックナイン(最終日のラスト9ホール)では笑顔は消えるに違いない、と思った。ところが違った。最後まで渋野は笑っていた。自分らしさを貫いた。

 選手は優勝争いの極限の緊張状態に集中力を研ぎ澄ます。コースに漂う、あの独特な空気感。記者にとっても、あのピリピリ感が快感であり、その場に立ち会うことが喜びだ。だが、それだけではないことを渋野が教えてくれた。自らのパフォーマンスを最大限に引き出す方法を知っているのだろう。

 それぞれに合ったプレースタイルがある。松山英樹が渋野のようにカメラ目線で笑うような日が来ることはないだろうし、求めようとも思わない。彼は練習ラウンドでは楽しそうに笑うことも多い。試合では、松山には松山の集中の仕方があってしかるべしだ。個性豊かな選手がそろう競技は見ていて楽しい。多様性の時代を迎えた。「こうでなければならない」という押しつけは、もう古い。

 ◆高木 恵(たかぎ・めぐみ)北海道・士別市出身。1998年報知新聞社入社。整理部、ゴルフ担当を経て、2015年から五輪競技を担当。16年リオ五輪、18年平昌五輪を取材。

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