女子ゴルフの渋野日向子(22)=サントリー=が2021年は“忍者”で戦う!? 今年初戦のダイキンオーキッドレディス(4日開幕・沖縄・琉球GC)に向け、渋野は国内で飛距離よりも精度に重点を置いてトレーニングを重ねてきた。19年11月から契約する斎藤大介トレーナー(35)が体幹強化と連動を意識させるために採用したのが“忍者エクササイズ”。22年からの米ツアー本格進出を念頭に、体づくりに励む渋野の近況を聞いた。(取材・構成=榎本 友一、宮下 京香)
まるで忍者が手裏剣をかわすかのように、渋野がマット上を素早く左右に転がる。足を大きく回転させながら体幹を軸に、転がっては止まる動作を繰り返す“忍者エクササイズ”を斎藤トレーナーは今オフに取り入れた。「下からのねじりの力を上半身に伝える動き。力をつけても、うまく使えなかったら意味がない。力を入れる順番やタイミングを考えながらやっています。けっこう難しい動きで、プロゴルファーであそこまでうまくできる選手はいないですね」。世界のトップ選手を担当してきた斎藤氏も、日本が誇る“忍者しぶこ”の動きに驚きの声。昨年、一貫して下半身と体幹を鍛えてきた成果と言える。
渋野は今オフ、仕事や取材対応を減らして練習とトレーニングに集中。2月は国内合宿を張っていた。今オフのトレーニングについて話し合っていた昨年末、斎藤氏は、渋野から「飛距離はいりません。より自分の体を使いこなせるようになりたいです」と言われた。そこで、22年からの米ツアー参戦も見越して「体を大きくするよりも、緊張状態でも思い通り動く体づくり」(斎藤氏)をポイントに置いた。その一環が効率の良い連動を意識する“忍者”の動きだった。
背景には20年最終戦となった12月のメジャー、全米女子オープンで得た手応えがある。渋野は初日から最終日中盤まで首位を走り、2差4位で終えた。平均飛距離は242・3ヤードで全体42位だったが、フェアウェーキープ率76・19%は12位、パーオン率74・07%にいたっては2位。飛距離よりショットの精度の高さで、メジャー2勝目まであと一歩に迫った。その経験から出した答えが、長所である精度を高めることだった。
合宿では1回60分のトレーニングを2日間やって、1日休むを繰り返した。「切れを出すジャンプ系や瞬発系の動きを繰り返して、体に動きを染み込ませています」と斎藤氏。午前中はトレーニング、午後は練習。新たにバイクトレーニングも取り入れた。3秒間全力でバイクをこぎ、1分間の休憩を1日5~10分間繰り返す。斎藤氏は「最大パワーを出す瞬発系のもの。ゴルフも瞬発力が大事ですから」と意図を説明する。
体重の変動も、昨秋痛めた右足裏も問題はなく、斎藤氏は「順調です」とうなずく。「SHINOBI(忍)」の動きを体得して増したショットの安定感を武器に「SHIBUNO」は再び世界の頂点に挑む。
◆斎藤 大介(さいとう・だいすけ)1985年11月24日、群馬県生まれ。35歳。高校卒業後、専門学校で6年間トレーニング理論を学ぶ。ファイテン社に3年間勤務し水泳、野球、男子ゴルフの片山晋呉ら各選手を担当。2014年から豪州に滞在し、16年からは米女子ツアーでリディア・コ(ニュージーランド)、イ・ジョンウン6(韓国)、畑岡奈紗ら世界トップ選手を担当。担当選手の米女子ツアーは通算15勝。インスタグラムはgolf_fit_japan
3~12月までの長いシーズンで、安定したプレーを継続するためには「食事や栄養補給も大切」と斎藤氏は話す。「体重の大幅な増減をさせないこと。一日に必要なビタミンやミネラルを補えるように」と昨秋に試した、特製ミックスジュースを21年は本格導入する予定だ。また、渋野がラウンド中に口にする大好きな駄菓子に加え、今年は栄養価の高い「チョコレートとナッツ」の摂取も進めていくという。
◆渋野のこれまでの主なトレーニング
▼珍名エクササイズ 計30種以上を数える。渋野はそれぞれに専門用語を使わず「シュリンプ」「チョモランマ」など動きをイメージして命名。シュリンプはうつぶせでエビのように反る動き。
▼チューブトレ 片方を固定したチューブを腰に巻いて頭を動かさずに引っ張る。下半身から上半身に力を伝え、体の上下を連結させるトレーニング。地面を蹴り、その力を上に伝えることで、よりパワーを生み出せ、スイングの安定性につながる。昨オフから継続的に取り組む。
▼ボクシング 約5分間、パンチを一発ずつしっかり打ち込む。体の軸がぶれないよう、おなかに力を入れる感覚を養うために昨年7月から始めた。