女子ゴルフ史上「最小トーナメント」で6年ぶり優勝の川岸史果「誰にでもチャンスある。目の前の1打に集中しました」


優勝トロフィーを手に笑顔を見せる川岸史果(カメラ・今西 淳)

優勝トロフィーを手に笑顔を見せる川岸史果(カメラ・今西 淳)

◆女子プロゴルフツアー リシャール・ミル ヨネックスレディス 最終日(4日、静岡・朝霧ジャンボリーGC=6687ヤード、パー72)

 第1ラウンド(R)の未消化分と決勝ラウンドの9ホールが行われ、川岸史果(加賀電子)が通算9アンダーで並んだ20歳の佐久間朱莉(大東建託)をプレーオフで下し、17年マンシングウェアレディース東海クラシック以来、6年ぶりの2勝目を飾った。「怪物」と呼ばれた川岸良兼を父に持つ28歳の飛ばし屋が、異例の27ホール勝負を制した。キャディーを務めたプロゴルファーの母・麻子さんと無言で抱き合って感激の涙を流した。

 昨季の年間王者でツアー史上3人目の3週連続優勝を目指した山下美夢有(加賀電子)は1打及ばず、3位タイだった。

 今大会は例年、新潟・ヨネックスCCで行われているが、今年は提携コースの朝霧ジャンボリーGCでの特別開催となった。地元の静岡・富士宮市のホームページには「5月から8月にかけて朝夕霧の発生が多く、名前の由来となっています」と記されている通り、霧によってプレーの進行が大きく遅れた。競技成立のためには少なくとも18ホールと同一の9ホールを加えた27ホールが必要。2日の競技が悪天候で中止になったこともあり、競技成立のため、最終日は第1Rの未消化分を全選手がホールアウトした後、ツアー史上初めてセカンドカット(決勝進出選手の絞り込み)を実施した上で同一の9ホールで争われた。

 セカンドカットありの27ホール勝負はツアー史上「最小トーナメント」。異例の戦い制した川岸は「誰にでも優勝のチャンスはある。リーダーボードを見ないで、目の前の一打に集中しました」と勝因を明かした。

 父はパーシモンドライバーで楽々と300ヤードをかっ飛ばしていたという伝説を持つ川岸良兼。母の麻子さん(旧姓・喜多)も1991年にツアーで賞金ランク119位になったプロゴルファー。鳴り物入りでデビューした川岸は期待通りに活躍した。22歳だった2017年のマンシングウェアレディース東海クラシックでツアー初優勝。その年は8215万534円を稼ぎ、賞金ランク7位に躍進した。

 しかし、翌年からドライバーショットが絶不調になった。「(大きく曲げて)ギャラリーにボールを当ててしまうのでは、と怖かった」と明かす。18年は賞金ランク60位に急降下してシードを手放し、19年は賞金0円まで落ち込んだ。

 どん底からはい上がった原動力は、自身の努力と工夫。そして、両親の愛だった。

 「クラブ契約をフリーにして、どのドライバーも選択できるようにしました」と明かす。肉体改造も試行錯誤を繰り返した。「一時は体重を絞りましたけど、そうすると、私の持ち味の飛距離が落ちた。また(体重を)増やしました」と説明した。

 キャディーを務める母とはいつも一緒に行動している。優勝したマンシングウェアレディース東海クラシックはコースのアップダウンが激しいため、ハウスキャディーにバッグを担いでもらったら優勝。「私が担いでいる時に勝ってよ」と、いつもエールを送っていた母とやっと一緒に勝った。勝利の瞬間、母と娘は言葉を交わすことなく抱き合った。

 良兼も娘を懸命にサポートした。「先週もコソコソと見に来ていました」と麻子さんは笑顔で明かした。この日、良兼は埼玉のゴルフコースで仕事があったため、不在。「オレがいない時に勝つなよ」と冗談めかして話していたという父に対し、川岸は「私の前より、他の人の前で、すごく喜んでいると思います」と幸せそうな笑顔で話した。

 本来の半分の27ホール決着。ツアー史上「最小トーナメント」だったが、川岸にとって6年の苦難を乗り越えた大きな勝利だった。

最新のカテゴリー記事