蝉川泰果 42年ぶり更新22歳大会最年少V「イチかバチか。パーかダボか」18番ベタピンで激闘に終止符


18番、優勝を決めるパーパットを沈め、感極まる蝉川泰果(カメラ・今成 良輔)

18番、優勝を決めるパーパットを沈め、感極まる蝉川泰果(カメラ・今成 良輔)

◆報知新聞社主催 男子プロゴルフツアー メジャー最終戦 日本シリーズJTカップ 最終日(3日、東京よみうりCC=7023ヤード、パー70)

 首位で出た蝉川泰果(フリー)が4バーディー、2ボギーの68で回って通算15アンダーとし、22歳326日で涙の大会最年少Vを飾った。1981年の羽川豊の23歳363日を更新した。4月の関西オープン以来となる約8か月ぶりの今季2勝目、通算4勝目をプロ初のメジャーVで達成。アマだった昨年の日本オープンに続くメジャー2冠は、73年ツアー制施行後の最年少でもあり、記録ずくめの22歳は来年の目標に「海外1勝」を掲げた。中島啓太(23)=フリー=、金谷拓実(25)=Yogibo=が1打差2位。

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 自らの手で新たな歴史の扉をこじ開けた。すり鉢状のグリーン脇から、観客がかたずをのんで見守った。1打リードの名物ホール、18番パー3。蝉川の第1打はグリーン右手前へ。前日はピン奥から高速グリーンの“洗礼”を受け4パットのダブルボギーだった。「昨日(第3R)のダボがよぎった」。必死で雑念を振り払い、「イチかバチか。パーかダボか」と覚悟を決めたアプローチはピン40センチにピタリ。激闘に事実上、終止符を打った。

 きっちりパーセーブすると、「最終戦で優勝できて本当に良かった。すごく幸せ」。こぼれ落ちそうな涙を拭い、追走していた中島らと健闘をたたえ合った。昨年まで40代の谷原秀人(45)が連覇するなど経験がものをいう最終戦メジャーで、81年羽川豊(23歳363日)の記録を42年ぶりに更新する22歳326日での大会最年少Vだった。

 冬晴れの最終日、首位に並んで出た。「(中島は)一番当たりたくない、隙がない相手」。大会2勝の石川遼(32)も序盤は食らいつき、大ギャラリーを引き連れた。14番のバーディーで単独首位に立ったが、16番のボギーで中島に並ばれた。それでも動じない。17番パー5で2オンからバーディーを奪って頭一つ抜け出した。金谷も加えた20代による賞金ランク上位3人の三つどもえ対決を終盤に制した。

 昨秋に史上初のアマ2勝。4月にプロ初Vと今季を順調に滑り出したかに見えたが、この2勝目が遠かった。「同学年の中島選手、(日本プロ選手権優勝の)平田(憲聖)選手が勝つ中、自分の存在が小さくなっていく感じがした。投げ出したくなる時もあった」。取り残されていく不安。父・佳明さん(62)には「オレ、去年より下手になったのかな」と、打ち明けたこともあった。9、10月のディフェンディング大会で予選落ちと36位に終わり、過度な重圧から腹部にじんましんが出た。

 「結果が出ないと、しんどい」。悩める22歳は10月下旬の試合がない週、自分を見つめ直した。アマで飛躍し、一気に注目を浴びた。「去年と比較すること」。そのこだわり自体をやめた。苦悩する自分と決別し、メンタル面で強さを取り戻した。11月以降はトップ3が2回と、持ち前のドライバーショットで攻めのゴルフを展開。この最終戦はスコアボードすら見ず自らのプレーに集中した。

 賞金ランク3位以内の資格で来季欧州ツアー切符を手にした。来季は「主戦場は日本」としながらも「欧州、アジア、PGA(米)ツアーも出る機会がある。海外1勝を目標に」と力を込めた。“和製タイガー”は真っ赤なジャケットに袖を通し、60回大会王者に名を刻んだ。視線は世界に向いていた。(岩原 正幸)

◆蝉川 泰果(せみかわ・たいが)

▽生まれ、サイズ 2001年1月11日、兵庫・加東市生まれ。22歳。175センチ、77キロ

▽ゴルフ歴 1歳からアンパンマンのプラスチック製クラブでゴルフを始めた。ウッズの全盛期に生まれ、「物心ついたときにはプロゴルファーになると決めていた」

▽得意クラブ ドライバーで今季平均飛距離は306・57ヤードでツアー6位の飛ばし屋

▽名前の由来 「英語でも読めるように」という理由で父・佳明さんが名付け、たまたまタイガー・ウッズと同じ名前になった。同名のタイガはツアーメンバーにも多いが「同じ名前のタイガにも負けたくないけど、誰にも負けたくない」

▽実績 22年度ナショナルチームに選出。同年9月のパナソニックオープンで史上6人目のアマチュア優勝。10月のメジャー、日本オープンで史上初のアマ2勝を達成し、同31日にプロ転向

▽ウェア 大会初日はピンク、最終日は東北福祉大カラーの黄色

▽家族 両親と姉

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