◆米女子プロゴルフツアーメジャー第5戦AIG全英女子オープン最終日(4日、ウォバーンGC=6756ヤード、パー72)
2打差の単独首位から出た渋野日向子(20)=RSK山陽放送=が7バーディー、1ボギー、1ダブルボギーの68で回り、通算18アンダーで優勝した。海外メジャー初出場での大偉業で、日本勢では1977年全米女子プロの樋口久子以来42年ぶり2人目のメジャー制覇。プロ転向から1年、世界的に無名だった20歳が、安定したショットと強気のパットで後半2打差を逆転して一気に頂点をつかんだ。笑顔でも世界を魅了した“スマイリング・シンデレラ”は、来年8月の東京五輪(埼玉・霞ケ関CC)日本代表入りへ急浮上。金メダル獲得に向け、次なるシンデレラ・ストーリーをつむいでいく。
プロテスト合格からわずか1年、無印の20歳がメジャー女王へと駆け上がった。サラスと首位に並んで迎えた最終18番。渋野の4メートルのバーディーパットは、強く出てカップの反対側の土手に当たって沈んだ。一瞬、感極まった表情を浮かべたが「泣きそうになると思ったら、涙が出てこなかった」。最後までほほ笑み続けた“シンデレラ”を大歓声が包んだ。「プレーオフはしたくなくて。バーディーか、ボギーかと思っていた。壁ドンで入ったのでやりきった」。パターを持った左腕を英国の空に高々と掲げた。
序盤の3番で4パットし、大会初のダブルボギー。折り返しで2打を追う展開にも「追われるより本領を発揮できる」と集中。「まだ狙える」と後半強気にピンを攻めた。圧巻は253ヤードとティーが前に出された12番パー4。「ドライバーを持たなかったら悔いが残る」と迷わず強振し、池越えの1オンに成功してバーディーを奪った。雨、風の強い全英らしい海沿いのリンクスではなく、高い松林でセパレートされた日本に多い林間コースで好天続きも後押し。10番からの9ホールは4日間ボギーなしで18バーディー。メジャーでは異例の伸ばし合いを制した。
転機は4月だった。KKT杯バンテリンレディス初日は81で最下位。そこで「ピンしか狙わない」と心に決めた。第2日は1イーグル、6バーディー、2ボギーのベストスコア66で50位浮上。日本ツアー史上2人目の最下位からの予選突破で「相当、自信になりました」と極限状態で攻め抜くショット力を手に入れた。
明るい笑顔で42年間閉ざされてきた扉をこじ開けた。初の海外試合でも物おじしない性格と大胆さを発揮。ラウンド中に駄菓子をかじる“もぐもぐタイム”でリラックス。ピリピリした空気が漂うメジャー、世界屈指の名手たちが重圧でミスを重ねる中、ホール間にはギャラリーとハイタッチし続けた。その異質な天真らんまんさで、運も大観衆も味方につけた。
勝負強いパットも光った。元々、パットが苦手で昨年から新練習を導入。1メートルから打ち始めて50センチずつ距離を延ばし、9方向から9球続けて打つ。「7球入るまでは帰れない」ルールでラウンド後3時間、真っ暗になるまで打ち続けた日もある。「追い込まれた時のパットの決まる確率が完全に高くなっている」。緊張状態でもショートせずに打ち切る強気のパットで世界をつかんだ。
世界ランクは東京五輪代表圏内、日本勢2番手への初浮上が確実。「日本を引っ張る存在に近づけたかな。でもそう思うとてんぐになってしまうので、まだまだ下っ端です」と笑う。同じ1998年度生まれの「黄金世代」畑岡奈紗とのコンビで日本ゴルフ界初のメダル獲得の期待は膨らむ。“スマイリング・シンデレラ”の物語は次章へ続く。
◆東京五輪ゴルフ日本女子代表争い
今季も米ツアー1勝を挙げ世界ランク9位の畑岡は、けがなどがなければほぼ当確。既に霞ケ関CC東Cを練習ラウンドするなど、メダル獲得へ意気込んでいる。2番手争いはし烈で、全英に加え今季国内2勝の渋野が急浮上。17年賞金女王で今季3勝の鈴木愛、6月の全米女子オープン5位の比嘉真美子が追う。勝みなみや今季抜群の安定感を見せている河本結、小祝さくら、原英莉花の黄金世代も猛追中。米ツアー経験者で技術力の高い上田、五輪代表に強い意欲を持つ成田の実力者もチャンスだ。来年6月末の五輪代表決定期限まで、大混戦となりそうだ。
◆ゴルフ東京五輪への道 男子は20年6月23日、女子は同30日時点の世界ランクを基準に算定する五輪ポイント上位60人が出場権を獲得。〈1〉同ランク15位以内は各国・地域で最大4人〈2〉16位以下は〈1〉の有資格者を含み最大2人が出られる。男子は20年7月30日から、女子は同8月5日から4日間、埼玉・霞ケ関CC東Cで72ホールストロークプレーの個人戦で競う。16年リオ五輪で初出場した日本勢は男子は池田勇太が21位、片山晋呉54位。女子は野村敏京が4位、大山志保が42位だった。