
ウィニングパットを決め、ガッツポーズする菅沼菜々(カメラ・今西 淳)
◆女子プロゴルフツアー パナソニックオープン 最終日(4日、千葉・浜野GC=6751ヤード、パー72)
首位から出た菅沼菜々(25)=あいおいニッセイ同和損保=が5バーディー、2ボギーの69で回り、通算10アンダーで涙の復活優勝を果たした。23年10月の延田グループ・マスターズGCレディース以来、1年7か月ぶりの通算3勝目。昨年はポイントランク79位に沈み、シードを喪失。主催者推薦のチャンスをつかみ、「ゴルフ界のアイドル」が再びコースで輝いた。次週の国内メジャー初戦、ワールドレディスサロンパスカップ(8日開幕・茨城GC東C=報知新聞社後援)でメジャー初優勝に挑む。
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苦しみを乗り越えた25歳がコースで輝きを放った。1打リードの18番パー3。グリーン奥のラフに沈んだ第2打を56度ウェッジでピン横40センチにピタリと寄せ、勝利を確信した。ウィニングパットを沈めると、初優勝時と同じく両手を高く突き上げ大喝采を浴びた。「ここまで早く復活できるとは。あまり信じられない。また優勝することができて、本当にうれしい」と1年7か月ぶりの優勝に、関係者と抱き合い涙があふれた。
昨季は「どん底を味わった」一年だった。ショットが左右に曲がり、29試合に出場も16度の予選落ち。シードを落とし、11月の最終予選会(QT)も102位で、ストレスから開幕時より体重は6キロも減少。9月には肺炎で5日間、入院していた。QT後は「ゴルフを好きになるまでクラブを握らない」と決断した。
再起の支えになったのはファンやスポンサーだった。今年1月にファンミーティングを開催し、激励の言葉を多くもらった。「たくさんの方にパワーをいただいて、今年も頑張らなきゃなと思えた」。応援に感謝し、1か月半後に練習を再開した。この日は復活劇を待ちわびていた約200人のファンに、笑顔でサインを書き続けた。
“再生請負人”の存在が大きかった。原江里菜の7年ぶりVなどを支え、衣料品販売大手ZOZO創業者の前沢友作氏(49)のコーチでもある森守洋氏(48)にQT前から師事。「菜々ちゃんは天才」と褒められながらスイングを再構築した。
不調時は悩んでプレーが遅くなっていたが、4月に参戦した男子ツアー「前沢杯」で復調のきっかけをつかんだ。2日間ともにプレーした石川遼(33)=カシオ=ら男子プロのプレーの速さに「せっかちなので自分にすごく合っている。構えたら迷わず打つ」と本来のリズムを取り戻した。同大会にも帯同した森氏は「近いうちに勝つよ」と父・真一さん(56)に復活を予言していたという。
20年には「広場恐怖症」を公表した。広い場所や閉ざされた場所など、特定の場所で不安を感じる。薬物療法が一般的だが、ドーピングの影響があり服用できない。「今は病院に行ったりはしていないけど、自然に治ることを祈ってやっている」。今オフには1人でバスに乗ることにも挑戦した。自宅から20分の距離だが菅沼には大きな一歩。「すごく勇気がいりましたし、最初は一人で乗ったのでやばいかなと思ったが、バスは結構停まるので、乗ってみたら大丈夫だった」と着実に前に進んでいる。
昨年12月には日本パラスポーツ協会へ100万円の寄付を行った。自身も広場恐怖症を抱えることから、パラアスリートをリスペクトしている。ともに前を向いて頑張りたいとの考えから、3季連続で獲得賞金の一部を寄付してきた。「勇気や希望を届けられるように、たくさん上位に入りたい。1人でも届けられていたら、私がゴルフをやっている意味がある」と強い気持ちで、ゴルフを続けてきた。
菅沼は今月2日に自身初のデジタル写真集「Nana’s moment」も発売するなど、“広報活動”も熱心だ。この日の表彰式では「女子プロゴルフの魅力を1人でも多くの方に知っていただけるように、私自身が少しでも力になれるように、頑張っていきます」と堂々とスピーチした。
昨年まではJLPGAブライトナーを務めた。ツアーの顔としてSNSで発信することも多かったが、成績不振もあり、批判の声は多く飛んだ。当然、嫌になることは多々あったという。「成績が悪い時に発信すればするほど火に油を注ぐというか(笑) 頑張るだけ頑張っていて、これ以上どうすることもできなかった。成績はついてこなかったけど、ゴルフをもっと広めたい。自分ができることはしたいので、発信はしていました」と自身のスタイルを貫き通した。
今回の優勝で、ワールドレディスサロンパスカップの6大会連続出場も決めた。前回大会は昨季自己最高の9位。「奇跡の9位だった(笑) あの調子でトップ10に入れたので、思い入れもあるので頑張りたい」とメジャー初制覇にも意欲を見せる。笑顔の戻ったアイドルゴルファーが、大舞台でも主役の座を狙う。(富張 萌黄)