フィッティングの基本は、そのプレーヤーに合ったクラブにセットすること。しかし、スポーツというのは、どんな競技であれ「上手くなる」「上達すること」が目標であり、単に「個人に合った(適合した)クラブにする」だけでは、片手落ち。例えば、クラブフェースをフック度数4度まで被せても、極度のスライスボールがストレートボールに修正されるとは限らない。また、飛距離を伸ばすにしても、そこには、道具(クラブ)では補えない限界点がやってくる。
そこで堀口さんは「クラブのフィッティングだけでは補えない、〝さらなる進歩〟のためにはスイング自体の簡単な修正が必要になってくる」という。
Tさんの場合も、これまで右にしか飛ばなかった。そこで、一旦、スクエアに戻したフェースアングルを1.5度フックフェースに替え、左腕を伸ばしたままインパクトするという基本動作を叩き込まれた。その結果、ついに真っ直ぐな軌道でボールをヒットすることが出来るようになった。当然、ボールはストレートに近い球筋を描くようにもなった。
当初、このフィッティングに挑戦した目的は「右に飛んでいくボールの矯正」だった。だから、当初は「ボールが右に飛んで行かないようなクラブが欲しい」と、調整を依頼したのだったが、データを見ているうちに、右に飛び出す原因がスライスではなく、インサイドアウトだったことから、それが修正されて、欲が出た。「だったら、もっと飛ばしたい」と。
堀口さんはすぐさまTさんのスイングの欠点修正に取り組んだ。先ず、手首の返し。すでにこの点は、矯正の課題の第1ポイントとしてアドバイスされていたが、インパクト後の左手の身についた動きはなかなか治らない。飛距離が伸びないのは、インパクト後にヘッドスピー度が落ちてしまうせい。これを、手首を返すことによってヘッドスピードをさらにアップさせようと試みた。そこで取り入れられたのが「インパクト後の片手打ち」。つまり、インパクト直後に右手グリップを放して、左腕1本でフィニッシュまで持ってくる打ちかただ。Tさんは、指示されたとおりに、この方法で打ってみると、何と、ナイスショット!ひょっとしてミート率、ヘッドスピードもアップしてたのでは…。
両手で打った場合、ミート率が悪く、ヘッドスピードも上がらなかった。これは、実は、右腕が左手動きの邪魔していたことになる。インパクト時の右手動きのイメージは「強くボールを叩く」ことだったはずだが、意に反し、右肩が止まってしまい、実際はブレーキを掛けていたことになる。
ミート率が上がった理由は、左腕1本でフォロースルーを取ろうとすることで、ひじが伸び、左腕が一直線になっていたためだと考えられる。そして、左腕1本で一気にフィニッシュまで振り切ることで、左手が返るのと同時に右肩がうまく回転し、ヘッドスピードがアップした。それがクラブヘッドにパワーが伝わったためだ。
そんな「左腕1本打法」のイメージを体得したTさんは、今度は両手で同じ様に振ってみた。しかし、両手で打つと、悪い癖が顔を覗かせ、ミート率もヘッドスピードも落ちてしまった。今度は、左手の返しを意識するあまり、以前の悪いクセが頭をもたげ、スイング軸が左サイドに動いてしまっていたのだ。
それに気がついた堀口さんは「右足に体重を残すイメージで振り切ってください」とアドバイス。Tさん自身は「右に体重が残ると〝明治の大砲〟みたいになって、あおり打ちになってしまうのではないかな?」と多少の不安を抱えつつ、打ってみるとどうだ、何とミート率が1・47台、ヘッドスピードも33m/s程度まで上がってきた。
スイングの修正も確実に身につき、Tさん、思わずニヤリ。
この時に使ったドライバーのスペックは、グリップは細め。シャフトは、長さ44・5インチでバランスはC8の先調子。ロフトは13度でフェースアングルは1・5度のフックフェース。これは、多くの女性に合わせたものだった。
これに気を良くしたTさん。いよいよ最終段階に突入することになる。