どうしても右に飛び出しがちなTさんの打球に堀口さんは、とうとう、すべてをスクエアにセッティングし直して、「打ち方」から修正する方策に出た。
フィッティングに関し、一部の関係者の意見に「ただクラブ売るためだけに、調整するという方式には疑問を感じる」というのがある。つまり、クセのあるスイングのままで方向性や飛距離など、希望に応じてクラブの方で調整し、結果として確実に打球に変化が表れたとしても、スイングのクセがそのままだとしたら根本的な上達はない―というもの。簡単に言ってしまえば「その場しのぎでクラブだけ変えてもそれ以上は上手くはならない」ということ。
しかし、NAKASHIMA GOLFスタジオでは、先ずは、その時のスイングに合わせたクラブ・フィッティングを重視する。理由はこうだ。長年、クセのあるスイングでプレーしてきたことで、それが身に付いている熟年のプレーヤーに対し、根本からスイングを修正するというのは、返って、混乱を招き、スコアがボロボロになることもあるというのだ。それより、当初は、現在のスイングに合うように調整したクラブを使ってもらい、クラブに慣れてくれば、徐々に変化が表れて来る。そこで、さらにクラブに修正を加えつつ、スイングを改善して行ったほうが上達への近道になるという〝論理〟。ロングスパンでの修正を考えている。従って、アフターケアを2年間としているのもそのためだ。
とはいえ、その人のスイングをじっくりチェックし、大勢に影響がなく、僅かな修正を加えただけで打球の質が変わる―というケースがあることは事実だ。だから「絶対に修正しない」という訳ではなく、それが、今回のTさんのケース。堀口さんはUSGTF(全米ゴルフ教師協会)のインストラクターだけに、その辺りを的確に見極めた。
Tさんのドライバーショットが右に飛び出すのは、インサイドからクラブヘッドが入り、インパクト後もクラブフェースが目標方向を向いたままだったから―と判断した堀口さんは「グリップを短く持って、左右対称のスイングをして、インパクト後にクラブヘッドを返すように打ってみてください」とアドバイスした。
グリップをコブシ2つほど短く握ったTさんは、これまで〝手首の返し〟など意識したことは無かったそうだが、指示通りにフォロースルーで右手甲が上を向くように返して打ってみた。するとどうだ。7~8メートル先にある四角いターゲットのど真ん中を捕らえ始めたではないか! 今までは、このおよそ2メートル四方の的の右縁にばかり当たっていたのだが、打球は鋭くなり、方向性もバッチリ。
うまく打てた時のデータを見ると、打ち出し角度12.6度。ミート率1.42(真芯に当たると1.50)。そして、飛距離は148.1ヤードまで伸びていた。
そして、通常の握りの位置まで戻して、普通にショットしてみると〝会心の当たり〟。打ち出し角度16.6、ミート率もグンと上がって1.46。そして、飛距離はナント! 159.5ヤード。当初の2倍まで跳ね上がった。
フェースアングルはスクエア。ロフトは12度。シャフトは硬めのR。これまでしぼみっ放しのTさんだったが、気力が一気にアップしてきたようで、目の輝きが変わった。
ほんの少しだけスイングを直されただけでこの成果。次回が楽しみになってきた。