◆男子プロゴルフツアー マイナビABC選手権 最終日(28日、兵庫・ABCGC=7217ヤード、パー72)
最終組がハーフターン。プロ11年目で念願の初優勝を目指し、首位タイからスタートした木下裕太(32)=フリー=は1番からドタバタ劇を演じながらも3バーディー、1ボギーの34とスコアを2つ伸ばし、通算14アンダーとして単独首位で後半に突入した。3打差2位に川村昌弘(25)=アンテナ=、オーストラリアのブレンダン・ジョーンズ(43)=キャロウェイゴルフ=、韓国のH・W・リュー(37)=フリー=が続く。石川遼(27)=カシオ=は71で回り、通算2オーバーでホールアウトした。
初めての最終日最終組。木下裕太は緊張の極致に達していた。
1番、421ヤードのパー4。第1打は左に大きく引っかけ、バンカーへ。フィニッシュは全く取れないほど乱れた。
しかし、残り約140ヤードの第2打はバンカーからピン右手前4メートルのグリーンエッジへナイスショット。
だが、しかし。パターのバーディートライは30センチショート。「めちゃくちゃ気が弱い」と正直に話す弱点のメンタルが顔をのぞかせた。
ハイライトはここから。30センチのパーパットを「お先に」タップインしようとしたが、まさかのミス。ボールはカップ縁を1周回ってカップ縁に止まった。木下裕の動きも止まった。ギャラリーから大きなため息が漏れた。
だが、だが、しかし。その1秒後。ボールはカップにコトリと落ちた。ゴルフ規則により、ボールが停止しているか確認するため10秒待つことができるため、木下裕はぎりぎりでパーセーブ。引きつっていた顔は苦笑いに変わり、ギャラリーからどよめきと歓声が起きた。
2番ではボギーをたたき、2位に後退したが、4番パー5では第2打をグリーン手前に運び、第3打のアプローチをピン手前30センチにピタリ。今度はしっかりとど真ん中から沈めた。この日、初バーディーを決めると、5番、6番と3連続。首位に並び、単独首位に立ち、さらに1歩抜け出した。
茶髪で目つきは鋭い。一見、ヤンキー系だが「めちゃくちゃ気が弱いんです。見た目だけでも偽らないとゴルフをやっていられないので」と恐縮した様子で話す。第3日終了後には「最終日、中止になりませんかね」と弱音を漏らしていた。
1番では、あわや30センチのパットをミスするというドタバタ劇を乗り越え、単独首位で勝負の「サンデーバック9」に突入。念願のプロ初優勝への道は険しい。自らの「弱さ」を認めることができる「強さ」を持つ32歳は必死に戦っている。
◆木下 裕太(きのした・ゆうた)1986年5月10日、千葉市生まれ。32歳。8歳からゴルフを始め、多くのジュニアゴルファーを育てた北谷津ゴルフガーデンで腕を磨いた。同じ練習場にはツアー通算20勝を誇る池田勇太がいた。ジュニア時代、池田との戦績は「10回やって1回勝てるぐらい」。泉高から日大に進学したが、2007年、3年時に中退し、プロ転向。ツアー最高成績は今年9月のトップ杯東海クラシックの6位。今季、初の賞金シード獲得を確実にしている。愛車はプリウス。独身。172センチ、72キロ。