ロシアと戦うためにウクライナに帰った56歳指揮官 半年前にRマドリードを破ったベルニドゥブ監督の決意


 今季の欧州チャンピオンズリーグ(CL)予選1回戦から勝ち上がり、最終予選ではCLの常連ディアモ・ザグレブを倒し、グループ戦本戦に出場したモルドバ王者のシェリフ・ティラスポリ。半年前の昨年9月27日には「白い巨人」こと、Rマドリードの本拠地ベルナベウに乗り込み、世界を驚愕させる2-1の勝利を飾った。年間予算はわずかに500万ポンド(約7億9000万円)の弱小クラブが起こした奇跡。シェリフ・ティラスポリのユーリー・ベルニドゥブ監督(56)がロシアと戦うために母国ウクライナに帰国した。

 英BBCが報じたところによると、2月24日のロシアのウクライナ侵攻をベルニドゥブ監督が知ったのは同日の午前4時半。ヨーロッパリーグ参戦中のチームを率い、決勝トーナメントのプレーオフで対戦したスポルティング・ブラガとの対戦のためにポルトガルのブラガに遠征中、息子からの電話で知らされたという。

 ベルニドゥブ監督はこの知らせを受け、ゼレンスキー大統領が18歳から60歳までの男性に軍参加を呼びかけたウクライナへの帰国を決意。平穏な監督人生を捨て、モルドバからオデッサ経由で11時間かけて、最前線から120キロと迫った南ウクライナの故郷ザポリージャに到着した。

 以下、BBCが掲載したベルニドゥブ監督のコメントの抜粋。

 妻をはじめ、子供達、孫達も含めて、多くの親しい人達に帰国を止められた。しかし私の(ロシアと戦うという)意志は固く、一度決めたら2度と曲げないという私の性格を知る妻がまず折れてくれた。妻には心から感謝している。もうすでに軍に登録もした。モルドバに逃げるという選択肢もあったが、私と妻はここに残る。

 私が本当に理解できないのは、まずプーチンとその側近達。そしてどうしてロシアの人々がプーチンと立ち向かわないのかということだ。ただし、確かに多くのロシア市民が本当のことを知らされていないという側面はあるだろう。ロシア内では全く違う視点から事実を捻じ曲げて報道がなされている。彼らは我々を解放すると言っている。しかし一体何から我々を解放するというのだろうか?彼らは我々がファシストのナチスだと言う。ロシア軍はウクライナの軍施設だけ攻撃しているというが、市民の住宅を砲撃している。そう、彼らは嘘をついているのだ。

 私の考えでは、平和は我々の勝利でしか訪れない。なぜならロシアの要求は無茶なもので、全く受け入れられないものだからだ。私たちは立ち止まらない。無論、対話の必要性は認める。ロシア側が戦争をやめるために十分な知性を持っていることを期待している。もうこれ以上、女性や子供達が死ぬことがないことを願っている。

 もちろんサッカーのことは常に考えている。子供時代にプレーをし始めてからサッカーは私の人生そのもの。プロの選手となり、コーチになった。戦争が終われば、監督に復帰して、トロフィーを勝ち取りたい。

 半年前にRマドリードを破った時には、こんな状況になるとは想像もできなかった。2月に入って、ロシアに対する疑念が強まった。14日になると本当に心配し始めた。シェリフの選手達はそんな私の強張った表情を見て”何をそれほど気に病んでいるのですか”と心配した。「何でもない大丈夫だ」とその時は言ったが、あの時の杞憂が今は現実になってしまった。

 シェリフの選手達から電話をもらった。メッセージも届いている。私の家族を心配し、子供達の心配をしてくれている。3月1日にはリーグのライバルと対戦して勝った。この勝利を本当に喜んでいる。

 サッカーが心の支えだ。戦争が早く終わることを祈る。この戦争に勝って、1日も早く私の愛する職業に戻りたい。

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