茨城・小瀬高校の「挑戦」 ゴルフを通じて生徒を、地域のみんなをもっと元気に


地域のシニア世代とともにゴルフをプレーする茨城・小瀬高校の生徒たち

地域のシニア世代とともにゴルフをプレーする茨城・小瀬高校の生徒たち

 NHKの朝ドラ「ひよっこ」が最終回を迎えてから、ちょうど1年が経とうとしている。ドラマの始まりは茨城県北部にある架空の村「奥茨城村」が舞台だった。有村架純が演じる谷田部みね子が、仲間たちとこれまた架空の学校「常陸高校」に通学するシーンは日本の原風景を思わせ、何ともしみじみするものだった。

 この「常陸高校」のモデルとなったのが、茨城の北西部、常陸大宮市内にある県立高校・小瀬高校である。常井(とこい)安文校長は言う。

 「『ひよっこ』を作る前に、ウチの学校へ取材に来ています。ウチは茨城県内の高校で6番目に古い学校なんです。その頃、私は教頭だったのですが、『昭和40年代の茨城県北部の高校が舞台なので、その頃の高校はどうだったのか、取材させていただきたい』と。ドラマ名なども『まだ言えないんですが』というお話でした。その後に『ひよっこ』が発表になって『この前の取材はこれだったんだな』と思ったものです」

 それだけではない。なんと小瀬高校の男子生徒40人は実際、「ひよっこ」に出演している。「奥茨城村」が聖火リレーで盛り上がるシーンをご記憶の方も多いことだろう。このランナーのエキストラを務めたのだ。

 「授業のある日でしたが、エキストラを出して欲しいとの話で。11月の朝5時に集合ですよ(笑い)。ウチは当時、全校生徒が170名ぐらいでしたが、40人、何とか送り込むことができました」

 小瀬高校は明治32年9月に村立の農業補習学校として開校。来年創立120周年を迎える伝統校だ。全国の農村地帯のほとんどがそうであるように、小瀬高校を取り巻く環境も過疎化、少子化という問題に直面し、生徒数が減少している。現在の生徒数は153人だ。

 しかし、ピンチはチャンス。常井校長は様々な形で地域と一体になっての活性化へと取り組んでいる。そこで着目したのがゴルフだ。学校からゴルフ場「ロックヒルゴルフクラブ」までは車でわずか3分。ここで8月28日、地域の老若男女も参加し、「第1回中高生エンジョイゴルフ大会」が行われた。体操服姿の中高生たちが大人たちと一緒に、笑顔で初体験のゴルフに取り組んだ。常井校長はその意義について、熱っぽく語った。

 「地域を明るくしたい。その核として学校がある。じゃあ学校に何ができるか。この地域の近くにはゴルフ場がある。常陸大宮市内には9つのゴルフ場があるんです。シニア世代のゴルファーも多いし、ゴルフに親しんでいる人も多い。でも今、若い人のゴルフ離れが進んでいる。競技人口が減ってしまうと、地域も沈滞してしまう。だから若い人たちにもゴルフに親しんで、シニア世代やミドル世代とも一緒にできたら、楽しくなるんじゃないかと」

 確かに地域の高校生にとって、ゴルフ部の部員でもなければ、ゴルフ場は「近くて遠い施設」のままだ。百聞は一見にしかず。自らを育む地元の産業を知る。楽しむ。愛する。そこから誇りも生まれる。さらに大人たちと一緒にプレーすれば、最高のコミュニケーションツールになりうる。そして常井校長が強調するのは、ゴルフというスポーツが持つ教育的な側面だ。

 「ゴルフは審判のいない唯一のスポーツ。だから自分をコントロールする気持ちが求められます。ごまかさない、うそをつかないといった、青少年の健全育成にいい要素が入っているわけです。ゴルフを通じて、子供たちをよい大人にしたい。楽しみながら、マナーなどの大事なことを教わったりして、身に着けてほしい。打つ時には邪魔にならないようにして、危険なところには立たない。地面を痛めたら、補修する。そんな気配りを学んでほしい。ぜひこういうイベントをやってみたいと思ったんです」

 最初はヘタクソでもいい。元村長らおじいちゃんから父母の皆さんまで、プレーのやり方は大人が優しく教えてくれる。たまにいいショットが飛ぶと、楽しい。自然と高校生の間から声が飛ぶ。「ドンマイ!」「ナイスショット!」。世代を超え、いい表情でプレーしているのが印象的だった。常井校長はこう結んだ。

 「ゴルフを通じての地域活性化、人間形成を、ぜひこの茨城から発信していきたいと思いますね」

 スポーツは人々に笑顔をもたらすことができる。ゴルフが中高生とシニア世代、そして働き盛りの世代を結んだ夏の午後。生徒たちの笑顔と地域の元気を目指して、小瀬高校の「挑戦」はこれからも続いていく。(記者コラム・加藤 弘士)

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