◆女子プロゴルフツアー センチュリー21レディス 最終日(28日、埼玉・石坂GC=6470ヤード、パー72)
首位から出た稲見萌寧(もね、19)=都築電気=が5バーディー、3ボギーの70で回り、通算9アンダーでツアー初優勝を飾った。畑岡奈紗(20)=森ビル=ら8人の優勝者がいる1998年度生まれの「黄金世代」と2000年度生まれの安田祐香(18)=大手前大=ら「プラチナ世代」(ミレニアム世代)に挟まれた1999年の7月29日生まれ。「はざま世代のダイヤモンドを目指します」と宣言する稲見が19歳の最後の日にツアー史上15人目の10代チャンピオンに輝いた。
1打差2位は青木瀬令奈(26)=三和シヤッター工業=と韓国のイ・ナリ(31)=GOLF5=。原英莉花(20)=日本通運=は4打差7位に終わった。
ちょうど1年前。7月27日にプロテストに合格し、翌28日に手続きを経て日本女子プロゴルフ協会の正式会員になったばかりの稲見が最終18番にバーディー奪い、劇的な初Vを果たした。入れれば優勝、外せばプレーオフ。初優勝を狙う選手にとっては手が震える場面だが、稲見は肝が据わっていた。
3メートル、薄いスライスラインのバーディーパット。稲見は1年前のプロテスト最終日18番で、ほぼ同じ距離、同じラインのバーディーパットをねじ込んで、ぎりぎりの20位タイで合格した。「あの時に比べれば余裕。究極の状況に追い込まれても、手が動くと分かっていましたから。(2パットで)プレーオフは全く考えていなかった。心はしびれていたが、体はしびれていなかった」。ウィニングパットを沈めると、稲見は右手を天に突き上げ、ガッツポーズ。うれし涙を流した。20歳の誕生日を迎える前日、10代最後の日を自らの力で最高の日にした。
コースで見守った父・了(さとる)さん(41)の想像をはるかに上回る戦いっぷりだった。首位からスタートしたが、前半で3パットのボギーを2つもたたくなど、スコアを落とした。だが、しかし、プロゴルフの世界では勝負所となるサンデーバックナイン(最終日後半9ホール)で3つもスコアを伸ばし、勝ち切った。「ウチの娘は原英莉花さんの『かませ犬』だろう、と思っていた。優勝するなんて信じられません」と驚きの表情で話した。
ツアー本格参戦1年目ながら初優勝。今季の獲得賞金は3515万9733円。賞金ランク14位に躍進し、一気に初シードを決めた。
急成長中の稲見を支えているのは、小学生時代から並はずれた練習量だ。
東京・豊島区池袋出身。9歳でゴルフを始めた後、小学生時代は東京・足立区の荒川河川敷「新東京都民ゴルフ場」でボールを打ち続けた。日本人で初めて米男子ツアーで優勝したレジェンド青木功も若手時代に腕を磨いた歴史あるコースだ。夏場なら午前4時、冬場なら午前6時過ぎ。夜明けとともにスタートした。午前8時に帰宅して登校。夕方に下校すると、再び、河川敷ゴルフ場へ。「ジュニア(高校生以下)は1日2100円で周り放題。小さい頃、普通の練習場の人工芝マットではなく、天然芝でたくさんボールを打っていたことは、今、考えれば良かったと思います」毎日、送り迎えを繰り返した了さんは回想する。
中学入学と同時に千葉市の北谷津ゴルフガーデンに練習拠点を移した後も年中無休の日々を続いた。「今でも試合がない日は一日、約10時間練習しています。中学から練習を完全に休んだのは日本女子プロゴルフ協会の研修の時くらい。中学生の時、インフルエンザにかかった時も練習していました。その時、9ホール、パー27のショートコースで7アンダーを出しました」と稲見はサラリと話す。
ゴルフの練習環境を優先させるため、通信制の日本ウェルネス高校に進学。ゴルフ以外のスポーツ、習い事は了さんによると「字がうまければバカに見えないでしょう」という理由で習字だけ。「ゴルフでも習字でも、小さい頃から自分から進んで楽しそうにやっている。それがいいんでしょう」と父は笑う。
なぜ、そんなに練習するのか、できるのか。稲見には確固たる信念がある。「世界一の選手になるためには世界一、練習をしなければならない」
“黄金”と“プラチナ”に挟まれた1999年度生まれ。「はざま世代のダイヤモンドを目指す」稲見の目標は大きい。「五輪に出たい。メジャーにも挑戦したい」と野望を明かした。
29日は20歳の誕生日。「自分への誕生日プレゼントでこんなに最高なものはありません」と笑う。ただ、その記念すべき日も、いつもと同じように過ごす。次戦の大東建託・いい部屋ネットレディス(8月1~4日)に向けて、試合会場の山梨・鳴沢GCで午前10時から練習ラウンドをスタートする。