自称「運で勝った」プロゴルファー・時松隆光の運を引き寄せる力


悪天候のため最終日が中止となり、優勝杯と共に窓際でポーズをとる時松隆光

悪天候のため最終日が中止となり、優勝杯と共に窓際でポーズをとる時松隆光

 「引き寄せる男」なのだろう。24歳のプロゴルファー、時松隆光を、そう見ている。

 22日まで千葉県内で行われた、男子プロゴルフツアーのブリヂストンオープン。初日は雨天中止。最終日も台風21号の影響により、早朝に競技が中止になった。第2日までの36ホールの成績で競技が成立し、通算9アンダーの単独首位だった時松がツアー2勝目を手にした。

 1973年のツアー制度施行後、4日間競技(72ホール)の半分の36ホールで優勝が決まるのは7例目。まさかの結末に「1勝目は運、2勝目は実力で…と言いますが、僕は両方とも運だった」と照れくさそうに笑った。

 一気に成り上がった新鋭だ。昨年6月まで、レギュラーツアーの出場権さえ持っていなかった。しかし、同年7月1月の下部ツアーで優勝を飾ると、その資格で出場した同月下旬のダンロップ・スリクソン福島オープンでツアー初優勝をもぎ取った。

 勢いは止まらなかった。翌週の「ネスレ招待 日本プロマッチプレー選手権レクサス杯」では藤田寛之、谷口徹ら歴代の賞金王を次々に撃破。ツアー外の競技ながら頂点まで駆け上がり、日本最高額の優勝賞金1億円を手にして“月給1億円”の男になった。

 ところが、今季は絶不調。開幕から3試合連続で予選落ち。その後、4試合で決勝に進んだが、不振が続いた。5月下旬から4戦連続で予選落ちして迎えた8月、ISPSハンダマッチプレー選手権は1回戦で敗退。どん底まで落ちたかに見えた。

 ゴルフの神様は見捨てなかった。競技終了後、1回戦で対戦した手嶋多一に「ドライバーが合ってないんじゃないか」と指摘された。勧められるまま、8月から手嶋が契約するミズノ社の「MPタイプ2」にドライバーを変えた。これがはまった。

 高いスピンで飛距離が伸びるドライバーとの相性を考え、ボールも同様の特性があるブリヂストンスポーツの「ツアーBX」に変えて挑んだ9月のANAオープンで2位。次第に復調し、ブリヂストンオープンでは第2日にベストスコアとなる64。好調時のショットがよみがえった。

 ゴルフは個人スポーツ。ツアーでは全員がライバルであり、同じコーチや師匠に教わる同門関係でなければ“敵に塩を送る”行為はしない。手嶋がそれほど気にかけている時松とは、どんな人物なのか。

 メーカー関係者によると、義理堅い性格だという。昨年、契約を結んでいたナイキゴルフがクラブ事業などから撤退し、アパレル事業に専念すると発表した。時松は今季、キャディーバッグやクラブは、どのメーカーとも契約を結ばず、フリーの立場となった。「フリーになった以上、キャディーバッグもナイキではなく、気に入った他社の製品を使えばいい。プロですから。たとえば、バッグだけ契約を結んでお金をもらうこともできる。ただ、時松プロは今年も契約が切れたナイキ社のキャディーバッグを使い続けている。思い入れもあると思いますが、本当に義理堅い性格ですよ」

 ブリヂストンオープンの優勝会見。「ナイキが撤退したことで苦しんだか」と質問され、時松は答えた。「フリーになって、いろいろなメーカーのクラブを試打しましたが、どのクラブも良く感じる。悩みましたね」。模範解答だが、本音に聞こえるのが時松の魅力。運を引き寄せる人間とは、人を引き寄せる人間なのだろう。(記者コラム・高橋 宏磁)

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