経済界に幅広い人脈を持つ松井功・日本プロゴルフ協会相談役(72)=スポーツ報知評論家=が、財界トップランナーにゴルフや経営について聞く「松井功のグリーン放談」。第5回のゲストは、日清食品ホールディングスの安藤宏基代表取締役社長CEO(66)。チキンラーメンとカップヌードルを発明した“インスタントラーメンの父”安藤百福氏の次男に生まれながら、「打倒カップヌードル!」を掲げてヒット商品を連発した宏基氏は、「ゴルフは飛ばし」と言い切る“男ゴルフ”の達人でもあった。
松井「日本プロの冠協賛を引き受けていただいて、今年で5年目です。ありがとうございます。日本プロの話は後ほど伺うとして、ゴルフを始めたのは、お父さんの影響だそうですね」
安藤「私が大学2年でヨット部だったんです。うちの創業者(父・安藤百福氏)が『そんなもん、やめろ。これからはゴルフの時代だ。俺はゴルフ場作ることに決めた』と言うわけです。創業者はもともとゴルフが大好きでね。朝の5時からラウンドして、フロントにお金置いて帰るんですよ」
松井「従業員が来る前に、ですか?」
安藤「はい。理事長が怒るわけですよ。『会員が8時以前は禁止と言ってます』って。創業者は、そんなの時間もったいないから待てないと(笑い)。理事長に『そんなにやりたければ、良い土地があるから買って自分でやりなさい』と言われたのが、京都の都カントリー(現・日清都カントリー)の始まりなんです。ついていくと仕事の話ばかり。『お前もネーミングを考えろ』とか言われて(笑い)。車に缶詰めになってひねりだしのが『出前一丁』なんです」
松井「お父さんはその当時、ハンデ、いくつぐらいでした?」
安藤「28ぐらいです。うまくないんですがとにかく好きでね。年に100回以上を、30年ぐらい続けたんじゃないかな」
松井「年に100回?」
安藤「本当はもっとやってる。『命は金では買えない。ゴルフなら(命を)買える』(ゴルフで健康になるの意)とか言って。朝早くゴルフをやって、ちゃんと9時に会社に来る。2日に1回は絶対にやってましたね」
松井「CEOのスイングは癖がないし、飛距離も僕と同じぐらい飛ぶ。しかも、フルバックでしかやらないですよね」
安藤「これはそう。絶対。創業者もそうなんです。96歳になってもバックティーでやろうとした。ともかく飛ばすことだ、飛ばなくなったら終わりだって言ってね。隙あらば僕より飛ばそうとする(笑い)。この根性はいい。男が男を示す場というのは、最近は(他に)あまりないんですよ」
松井「企業のトップの方は、飛ばしにこだわる人が多いですね」
安藤「距離が落ちてきて、情けない、年だと思うのが嫌でね。何が何でも正確に飛ばして、若い奴をボコボコにやっつけるのが楽しい(笑い)。年だから飛ばなくなったなんて、認めたら坂道を転げ落ちるようなものですよ。負けちゃイカン、負けちゃ。俺は男だって言って、ガッツですよ」
松井「池田勇太が日清所属ですね」
安藤「彼は判断力がすごいね。プロアマでもきっちりと教えてくれて、一緒に回る人たちの評価は、すごく高いですよ」
松井「あの若さでホスピタリティーができてる」
安藤「あとは歩き方だけ、ちょっと(爆笑)。だけど性格はすごく良い。まあ、ゴルフは社技ですから(笑い)。社内コンペも盛んですしね。いわば、遺伝子です(笑い)」
松井「百福氏が96歳まで長生きされたのも、ゴルフとラーメンのお陰というわけですね」
安藤「1月2日に(役員コンペでゴルフを)やって、4日に初出式で散々しゃべって、5日に亡くなった。もう典型的なピンピンころり。すごい幸せだと思いますよ。創業者はずっとカートに乗らなかったけれども、93歳ぐらいで乗るようになった。でね、95歳でエージシュートやったんですよ」
松井「それはすごい」
安藤「ハワイのコオリナで、95歳の時に94。もう笑いましたよ」
安藤CEOは37歳で社長に就任。「カップヌードルをぶっつぶせ!」をスローガンに掲げて物議を醸した。ブランドマネジャー制度を導入し、百福氏とぶつかりながらヒット作を連発した。
安藤「35歳ぐらいかな、創業者は普通の人間じゃないなと思いましたね。並の人間の情熱じゃない。思い詰めたら、寝ても覚めても没頭できる。でないとブレークスルーってできないんでしょうな。創業者の言うことは全部聞く。いったん、全部聞いて、意見は後日言う。そういうことを悟りました」
松井「『お言葉ですが』と言わない?」
安藤「言わない。その場で言うとムカッとくるんでしょう。『お前、経験もないのに』とくる。毎日、1時間電話なんですよ。そのうち55分は相手がしゃべってる。よく怒られました。さらに1週間に1回は必ず大阪行って、話を聞く。会社のためなんです。トップの意見が違ったりすると、社員が不幸ですから」
松井「しかし、CEOが世界戦略を考えて、日清食品をここまで大きくされた」
安藤「社長ですから世界戦略を考えますと言うと、創業者は『お前のちっこいふんどしで、世界を包もうと思っても無理だ』と言うんです。下品でしょう?(笑い)」
松井「樋口久子さん、青木功さんも米ツアーに必ずカップヌードルを持って行きました」
安藤「少しでも日本のゴルフ界のお役に立てたんなら、うれしいです」
新しくPGA会長に就任した倉本昌弘プロが、あいさつに訪問。ここから対談は鼎談(ていだん)に。
安藤「ゴールデンバレーはすごいコースですな。アンダーは出ますか?」
倉本「私たちは出したいと思ってます。少しぐらいのアンダーが出ないと見てる人が面白くない。コース側と交渉中です」
松井「CEOは日本プロに対して希望はありますか」
安藤「より多くの観客に来て頂きたいというぐらいですね。ただ、男子プロの人気をもっとあげてほしいというのはありますけどね」
松井「レギュラーツアーの話ですね。CEOは競争原理を取り入れて、社内を活性化させました。日本のプロゴルフ界を活性化させるための、お知恵はありませんか」
安藤「トーナメント同士の競争原理はあるのかなと思うんですよ。我々は漠然と歴史や開催時期、賞金とかでトーナメントのいい悪いを言うんだけど、(他に)何か特徴的なことがないのか。そのトーナメントのバリューですよ。例えば日本プロにしても歴史はすごい。だけど他の試合とどう違うんだって言ったらね」
松井「トーナメント同士の競争原理という考え方は初めて聞きました。各トーナメントにブランドマネジャーを置いて競争させたら、面白いかもしれませんね」
安藤「好感度を測る、新たな評価基準を構築していくことですね。トーナメントを開催することで(企業の)好意度、好感度がどれぐらい上がるか。好感度は未来の売り上げにつながるわけでしょう。(企業に)そういうフューチャーを買ってもらうことでしょうね」
松井「トーナメントが競うことで将来の好感度が掘り起こされると」
安藤「コンセプトをどう構えるか。もっとダイナミックな構え方をしたらということですな」
◆日本プロゴルフ選手権大会 日本のメジャー大会(公式戦)の一つで、1926年創設の日本最古のトーナメント。主催は日本プロゴルフ協会。後援・報知新聞社ほか。2010年から日清食品が冠協賛社となり「日本プロゴルフ選手権大会・日清カップヌードル杯」として開催されている。今年は6月5~8日、会場は日本最高のコースレート77.4を誇る兵庫県・ゴールデンバレーゴルフ倶楽部。
◆安藤CEOが書いた2014年 年頭定是 「“the WAVE”から新たな地球の食を探求しよう。 ドライビングフォースとなるビジネスコンセプトを革新せよ。 グループ力を結集しシナジーを創出しよう。」(the WAVEは今年3月、東京・八王子に完成した日清食品グループの総合研究施設)
◆安藤 宏基(あんどう・こうき)1947年10月7日、大阪府池田市生まれ。66歳。71年慶応大学商学部卒。72年米国日清食品入社。73年日清食品入社。85年代表取締役社長、2008年持ち株会社設立に伴い、日清食品ホールディングス株式会社代表取締役社長CEO。
“インスタントラーメンの父”安藤百福氏の次男に生まれ、マーケティング部長時代に「焼そばU.F.O」「どん兵衛きつね」を開発。社長に就任すると“打倒カップヌードル”を掲げて「ラ王」「ごんぶと」「Spa王」などを開発した。カップヌードルの広告「hungry?」シリーズで、97年カンヌ国際広告映画祭「ADVERTISER OF THE YEAR」を受賞。05年藍綬褒章受章。慶応義塾評議員。公益財団法人安藤スポーツ・食文化振興財団理事長。世界ラーメン協会会長。日本経済団体連合会常任理事。日本食品・バイオ知的財産権センター会長。NPO法人国連世界食糧計画(WFP)協会会長。内閣府食育推進会議専門委員。著書に「カップヌードルをぶっつぶせ!―創業者を激怒させた二代目社長のマーケティング流儀」「勝つまでやめない!勝利の方程式」(共に中央公論新社)。
◆松井 功(まつい・いさお)1941年11月2日、神戸市生まれ。72歳。富士ゼロックス専属。用具契約はキャロウェイ。18歳で林由郎プロに師事し、66年プロテストにトップ合格。翌年、プロデビュー。主な戦歴は72年静岡オープン2位、79年全日空札幌オープン4位、80年ミズノゴルフトーナメント6位など。91年よりシニアツアーに参戦。2002年、日本プロゴルフ協会理事就任、広報委員長を経て、05年会長に就任。2期務めた後、13年から相談役。一般財団法人日本プロゴルフ殿堂理事長、NPO法人日本ジュニアゴルファー育成協議会(JGC)理事長、阿山カンツリー倶楽部理事長。