政財界に幅広い人脈を持つ松井功・日本プロゴルフ協会相談役(73)が、各界のトップランナーにゴルフや経営について聞く「松井功のグリーン放談」。第14回のゲストは、前Jリーグチェアマンの大東和美・Jリーグメディアプロモーション取締役会長(66)。今季からJ1に2シーズン制とポストシーズンを導入したかつての名ラガーマンは、「ロマンとそろばん」の両立を訴えるアイデアマンでもあった。(構成・鈴木 憲夫)
松井(以下松)「Jリーグがスタートして、今年で?」
大東(以下大)「93年スタートですから22年ですね。当初、10クラブで始まって今、52クラブ。37都道府県まで広がりました」
松「ゴルフを始めたのはいつ頃ですか?」
大「会社に入って先輩から勧められて。24、25歳ぐらいですね。ラグビーも現役でやってましたから、そうゴルフばっかりできませんけど、何しろ面白くて」
松「四国支社長に九州支社長。ゴルフ場のいいところばかり(笑い)」
大「そうなんですよ(笑い)。九州では古賀のメンバーで、コース委員を4年ほどやりました。一番、思い出があるのは小浜島ですね。石垣島から船で行くんですが、そこに日本最南端最西端のコースがあるんですよ」
松「初めて聞いた。本当に好きなんですね」
大「多い時で年間90ラウンドです(笑い)」
松「我々より多いね(笑い)。サッカーもラグビーもチームスポーツですが、ゴルフはどこに引かれたんですか?」
大「自分がプレーして自分で判断する。審判もいない。自分に正直じゃないとできない。奥が深いですよね。基本的にはチームスポーツの方が好きなんですが、ゴルフは別格です」
松「2019年にラグビーW杯が日本でありますが、どうですか」
大「その前に今年、ロンドンでW杯があります。ここで予選プールを抜けられるかどうか」
松「勝てますか?」
大「日本は今、世界で10番目ぐらいと言われてますけど、南半球の3チーム(ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ)はものすごく強い。そこにヨーロッパの6チームと、フィジーやサモアもいますからね」
松「しかし、19年は開催国の意地があるでしょう。日本には何が必要ですか」
大「まずはフィジカルでしょうね。高校生ぐらいから鍛えないと。それで経験を積ませる」
松「作戦面で日本らしさを出して勝つというのは無理なんですか」
大「それも考えるべきですね。同じことをやってても勝てませんから。フィジカル強化は前提ですが、そこから日本人らしさを表に出していかないと」
松「サッカーは昔と全然、変わりましたよね。速さとか。ただ、日本人選手は相手を引っ張ってでも倒してでもゴールに行くという気持ちが見えない。闘争心というのか。国民性でしょうか」
大「結局、それが球際ですよね」
松「ラグビー、サッカーはある意味、格闘技ですよね」
大「でも、今、ゴルフの選手も筋トレとかしてるんでしょう」
松「してます。文科省がやっと認めてくれて、ゴルフの選手もナショナルトレセンを使えるようになりました」
大「筋トレは専門家が見てくれるかどうかで、全然違うんですよ」
松「我々の時代はプールダメ、自転車乗るな、スキーもダメ。とにかく球打ってろでした。青木功さんと夏は朝3時半とかに起きて、球打って、キャディーやって終わったらまた打って」
大「体、ガチガチになるでしょう?」
松「若いから。でも、冬は手が割れて。メンソレータム塗って、軍手して寝ましたよ」
松「日本のサッカーは年間、どのぐらいの事業規模ですか?」
大「Jリーグの年間事業費が約120億円、他にクラブがJ1で平均30億円、J2で10億円、J3で3億円から5億円ありますから、トータルすると全体で約1000億円ぐらいでしょうか」
松「すごいね。それだけの大きな組織でも、何か、問題があったんですか? 大東さんが2シーズン制にしたということは」
大「データを調べますとね、2006年にJへの関心は国民の46%あったんですよ。それが2012年には30%まで減少した。プロスポーツの世界では、世間の関心は収入に直結しますからね。激論があったんですけど。前後期、プレーオフ、チャンピオンシップと山を作りましてね。お陰でテレビもつきました。年間で勝ち点を競う方式が本当だと思いますが、世界を見るとポストシーズン制を取り入れているところが4割ぐらいあるんですよ」
松「そんなに特殊な制度ではないんですね」
大「今、圧倒的にヨーロッパの4大リーグが放映権も含めて収益を持っていってる。多くのお金がアジアからもヨーロッパへ流れてる。それで私、アジア戦略をやってたんですけどね」
松「放映権料をどこが取るかというのが、一番大きい。ゴルフだと日本の試合は放映権はテレビ局が持ってる。アメリカは全部、PGAツアーが持ってるんです」
大「Jリーグは放映権料をリーグが一元管理して、そのお金を各クラブに配分するんです」
松「アメリカはそのお金で各選手に年金を出す。結構な金額ですよ。日本は組織を変えなきゃダメ。男子ツアーは今、瀬戸際なんです。20試合を割ったら世界ツアーから外れる。そうなったらただのコンペですから」
大「女子は増えてますよね」
松「男子は、ワンアジアツアーに頭を下げて、入れてくれと言ってる。私が会長だった時代は選手はみんな断ってた。フィリピンやインドネシア、行けませんよって。それが今、逆ですよ。行かないと試合がない」
松「サッカー界で上手なのは?」
大「やっぱり川淵キャプテンは別格です。エージシュートもおやりになったと聞いてます」
松「一緒に回ったことあります。うまいですよ。飛ぶし」
大「鹿島にいたときは、近くにいっぱいゴルフ場ありましたから、選手もよくやってました。選手OBで一番うまいと思ったのは『ミスター・エスパルス』の沢登正朗さんですね。彼はパープレーで回るんじゃないですか」
大「チェアマン時代に東日本大震災が起こった。いろいろ大変だったんですが、チャリティーマッチやったら、声をかけた選手が全員来てくれた。あの時はサッカー選手を誇りに思いましたね」
松「僕も3・11のときは会長でした」
大「あの試合でカズが点取ったんですよ」
松「なんか、やるんだね。カズは」
大「やっぱりキングですよ」
松「大東さんはラグビー、サッカー、住友金属、鹿島、Jリーグといろんなことやりましたね」
大「いろいろ経験させてもらいました。スポーツビジネスはロマンとそろばんだと思うんですよね。ロマンがなかったらあかんし、一方で経営的な基盤がないとうまくいかない」
松「うまいこと言うね。ゴルフ界もロマンとそろばんで、夢と希望を与えなくちゃいけないね」
◆大東 和美(おおひがし・かずみ)1948年10月22日、神戸市生まれ。66歳。71年早大教育学部を卒業、住友金属工業入社。96年四国支社長、2001年九州支社長。05年鹿島アントラーズFC専務取締役、06年代表取締役社長。10年7月、日本プロサッカーリーグ理事長(Jリーグチェアマン)就任。14年からJリーグメディアプロモーション取締役会長。
報徳学園高から早大とラグビー一筋。70年度には主将として大学日本一に輝き、日本選手権でも新日鉄釜石を下して優勝。日本代表にも選出され、英仏遠征に参加した。76年には早大監督に就任し、大学選手権優勝。鹿島アントラーズを経てJリーグの第4代チェアマンに就任すると、アジア戦略の推進、クラブライセンス制の導入、J1プレーオフの導入、J3創設、2ステージ制導入など次々と改革を打ち出した。早大ラグビーOB倶楽部会長。