昨年4月の米男子プロゴルフツアーのマスターズで、日本男子初のメジャー制覇という歴史的快挙を成し遂げた米男子ツアー通算7勝の松山英樹(29)=LEXUS=が、スポーツ報知の新春インタビューに応じた。自身33度目のメジャー挑戦で頂点に立ったマスターズを振り返り、史上4人目の連覇への思い、30歳を迎えるプロ10年目となる2022年の目標などを語った。(取材・構成=榎本 友一、宮下 京香)
―昨年のマスターズは4日間、非常に柔らかな表情が印象的だった。
「表情は意識していた。状態が良かったから仕方ないよね、みたいに緩い感じでできたのは正直あります。(最終日の)7、8、9番でこの(メジャー初Vに挑む)苦しさを日本の後輩には経験させたくないし、伝染させたら駄目だと思ったら覚悟が決まった」
―2打リードで迎えた最終日の18番。唯一右に折れ曲がる形状のホールで会心の一打が打てた?
「17番でいいドローボール(※1)を打てたからそれで行こう、と早藤(将太キャディー)とも言っていた。ただ構えた瞬間、右の木がすごい気になって。あっダメだ、これは打っちゃいけない。ボギーじゃ収まらないと思って。とっさに(ティーグラウンド左端からの)フェード(※2)に変えて、完璧に打てた」
―極限の緊張感の中でよく冷静な判断ができた?
「その一本の枝が見えなかったら多分、ドローを打っていましたね。極限状態だからこそ、できたんだと思う。その枝なんて今までは全然気にならなかった。でも22年に行ったらその木が目立つようになると思う。去年はこうだったよなって毎年(記憶が)更新されて、コースが広いのに狭く見えたり。それが(唯一毎年同じコース開催のメジャー)マスターズの難しさ」
―万雷の拍手を浴びた優勝時の景色と歓喜の涙は?
「マスターズを勝った人の中で一番ダサいなって思う(笑い)。18番もボギーを打って、(1打差逃げ切りで)逆に感動したのかなと。勝てればそれでいいと思っていた。全てを出し切ったし、最終日終盤4ホールは本当にしんどかった」
―史上4人目となるマスターズ連覇への思いは?
「初優勝からの連覇はタイガーですらできていない。それだけ難しい大変なこと。もちろん、それを目指してやらなきゃプロゴルファーではないと思いますし、楽しみ。勝てる状態で(その週に)入りたい」
―無観客でコロナ感染明けだった8月の東京五輪は、銅メダルプレーオフの末の4位でした。
「熱中症で初日のバックナインは記憶にないぐらい。マスターズを勝ってゴルフが注目を浴びている中、しんどいだけで途中棄権しちゃいけないと思った。(メダルを)取りたかったけど、あれ(プレーオフで敗れ4位)以上は出せなかった。それぐらい必死でやっていた」
―有観客の10月の米ツアー、ZOZOチャンピオンシップで国内開催の米ツアー初の日本人王者に。
「ZOZOは勝てる状態ではなかった。それがギャラリーの応援の力で勝てた。自分が集中したら勝てるというのを示せたと思う。それはすごいプラス。やっぱり勝つことが一番、ファンに見せるには手っ取り早いじゃないですか。だからすごい安全に攻めて、最終日にどこでスタートするかが大事と考えていた」
―ギャラリーの見え方がマスターズVで変わった?
「変化はすごいありましたね。今までは一緒に回っている選手の応援でしょ、みたいな感じがあった。それが全部自分に向いて、受け入れるというか。うん、任せてみたいな。自分しか見ていないということがすごいうれしかった。だからこそZOZOは頑張れた」
―22年の目標はより高い「安定」を求めていく?
「(米ツアーで)一番トップ10入りが多かったのは14―15年(25戦で9回)。でも、プロになった13年が一番安定していた。日本、アメリカでもほぼトップ30を外していなかったので。そこが目指すところです」
―22年はプロ10年目で30歳を迎えるが変化はある?
「何か物事を決断する時に、もう30歳だから変わらなきゃいけないってことはあると思う。体的なことでも感じるし。でも、変わったと思ったらしんどくなる。変わらない、と強調して言っておきます(笑い)」
【注】※1「ドローボール」は右打ちの選手が右に打ち出した球が左へと弧を描く球筋のこと。順回転がかかり地面で転がりやすく、飛距離が出やすい。
※2「フェードボール」は右打ちの選手が左に打ち出した球が右へと弧を描く球筋のこと。球が高く上がり、安定した弾道で地面で止まりやすい。
◆松山の21年マスターズ(7475ヤード、パー72) 8年連続10度目の出場で初日は1イーグル、2バーディー、1ボギーの3アンダー、69で4差2位発進。2日目は1イーグル、2バーディー、3ボギーの71で3差6位へ後退。3日目は1イーグル、5バーディー、ボギーなしでオーガスタナショナルGCでの日本人歴代最少&この日のベストスコア「65」で4差の単独首位へ浮上。最終日は4バーディー、5ボギーの73で1差でザラトリス(米国)を振り切り、日本男子のメジャー挑戦90年目で悲願を達成。
◆マスターズの2連覇 1965、66年のジャック・ニクラウス(達成当時26、米国)、89、90年のニック・ファルド(同32、英国)、2001、02年のタイガー・ウッズ(同26、米国)の3人。ファルドだけがマスターズ初優勝からの連覇だった。
◆松山 英樹(まつやま・ひでき)1992年2月25日、愛媛・松山市生まれ。29歳。4歳からゴルフを始め、東北福祉大2年の2011年マスターズで27位となり日本人初のローアマを獲得。同年の三井住友VISA太平洋マスターズでアマV。プロ転向した13年にツアー史上初の新人賞金王。同年秋から米ツアーに本格参戦して14年に初V。米ツアー日本男子歴代最多7勝。17年6月に日本男子最高の世界ランク2位となった。180センチ、91キロ。家族は妻と1女。