![父・恵太さん(右)と二人三脚で15位となってローアマチュアを獲得した中野麟太朗(カメラ・富張萌黄)](https://golf.hochi.co.jp/wp-content/uploads/2023/09/20230905-OHT1I51064-L-2.jpg)
父・恵太さん(右)と二人三脚で15位となってローアマチュアを獲得した中野麟太朗(カメラ・富張萌黄)
8月31日から4日間、男子ツアーのフジサンケイクラシック(山梨・富士桜CC)が開催された。19歳でアマチュアの中野麟太朗(早大2年)が初日に67で2位発進するなど、上位争いを繰り広げ、通算1オーバーの15位でローアマチュアを獲得した。今年6月の日本アマチュア選手権で初優勝し、ファンからは「リンリン」の愛称で親しまれる19歳の新鋭。ツアーには過去4度出場も、いずれも予選落ちだった。今大会で初の予選通過という飛躍を遂げ、平均300ヤードを超える飛距離を武器に「ゴルフ界のリンタロウ」と4日間大会を盛り上げた。
大会初日。インコース(10番)から第1組でスタートし、後半の3連続バーディーなどで、一時は首位の3アンダーでホールアウトした。スコアの動向を見ながら取材に向かった。報道陣の注目度は高く、取材時間は通常の倍近い約20分。プレーの内容やこれまでのキャリアなどについて話してくれた。
明大中野中、高から昨年、早大スポーツ科学部に進学。日大など強豪校からのスカウトも来ていたが、早大に進学したい理由があったという。「プロで活躍するなら、自分に必要なことは何か考えたときに、スポーツ科学部に興味がわいた。最先端なのが早稲田だった。頑張って入るしかないと思って受けた」。他大学を受験すれば、付属校の明大の推薦は消滅する。「博打(ばくち)だった。落ちていたら一般(入試)も受けるつもりだった」と強い覚悟を持ってAO入試を受け、見事に合格した。
文武両道のキャンパスライフを送っている。早大では試合出場の際も公欠扱いにはならず、欠席としてカウントされる。前期は試合が続き、あと1回休めば単位を落とす科目も。そのため、チーム戦で行われる全国大会は授業を優先し、無念の欠場となった。現在はトレーナーコースで、自分の体について詳しくなるために学んでいる。「授業はシビア。難しすぎて学校に行かないと、(ほかの学生に)思いっきり離される。テストも欠席分を取り返さないといけない」と学生生活もおろそかにはしていない。
21年、国内ツアー最多の通算94勝の尾崎将司が主宰する「ジャンボ尾崎ゴルフアカデミー」の4期生に合格した。同年に関東アマチュア選手権を制し、報告した際は「そこら辺の地方で勝ってきたんやろう」と厳しい言葉が返ってきた。そんな師匠も日本アマVには「けなすこと言えんな。一歩、一歩、階段を上っていけば、必ずプロでも成功できるだろう」と初めて褒めてくれた。その言葉を胸に刻み、一歩ずつ進んでいく思いを持ったという。
2日目以降も上位で戦って最終日は、今季2勝の中島啓太(フリー)、18年&19年の賞金王・今平周吾(ダイヤゴルフ)と同組となった。「自分を褒めたい」とトッププロ2人とのラウンドを終え、4日間で一番充実した表情を見せていた。中島の安定したショット力、今平のショートゲームの技術を間近で見て「初めてこういうプロになりたいと思った」と明確な目標が見つかった。初めてツアーで4日間プレーし、課題も多く見つかったが貴重な経験も多かった。「普通の試合じゃ見つけられない課題が、初めてわかった。その正解を目の前でプロが見せてくれて、ごちそうさまです」。最高の収穫に、いたずらっぽく笑った。
活躍を支えた人がいた。3日目までキャディーを務めた父・恵太さんだ。早大ゴルフ部が合宿のため、チームメートに頼めずに父に依頼。普段は運動をせず体力に不安があった恵太さんは、毎日30分のランニングで体作り。だが、7424ヤードと距離の長いツアー屈指のモンスターコースに初日から洗礼を浴びた。後半の3番ホール付近に50度と54度のウェッジを置き忘れたという。「親子の縁が切れる」と冗談交じりに心配したが、無事に届けられて事なきを得た。
2日目を終えた頃には、父の体力は限界に達していた。「あしたは別の人かも。考えます」とキャディー交代も示唆して、会場を後にしていた。3日目もキャディーを務めたが、体に湿布を貼りまくり、満身創痍(そうい)の状態だった。「あしたからは普通のお父さんに戻ります」。そう言い残し、3日間で役目を終えた。体を張ってキャディーバッグを運んだ父に向けて、麟太郎は「イライラするところもあったが、言葉でポジティブな思考にさせてくれたり、助かった面もあった。54ホールありがとうございました」と励まし続けてくれたことに、感謝の言葉を述べた。
父から早大の1学年先輩・小室敬偉(けいん)さんにバトンが渡された最終日。部員で話し合い、この日のウェアは大学カラーのえんじを選択した。ギャラリーの中には、ゴルフ部の仲間やOBたちの姿もあった。バーディーを奪えば盛り上がり、ボギーをたたいても仲間からの励ましを受けた。「チームメートっていいな。早稲田に入って、こういうチームメートに出会えて本当に良かった」。支えてくれる仲間のありがたみも、感じることができたという。
大会初日の好発進で、ネットや新聞に大きく自分の記事が掲載された。ネット記事は自身のX(旧ツイッター)で拡散。エゴサーチもして反応を見るなど、今時の大学生らしい顔ものぞかせた。スタートホールで名前がコールされると、帽子を取って深々と一礼。印象的なシーンで好青年ぶりがうかがえた。
プロを目指す中野だがQT(来季ツアー出場資格をかけた予選会)は大学4年まで受けないとキッパリ。だが、「アマチュアの間にレギュラーツアーで優勝する」という大目標は変わらない。「プロになるにはレギュラーツアーで勝って(転向)というのしかない。自分のプランとしては金谷拓実さん、中島啓太さん、蝉川泰果さんのような形が理想」。アマチュア優勝を達成し、プロになった選手たちと同じ道を歩みたいという夢を抱く。
今後はバンテリン東海クラシック(28日開幕、愛知・三好CC西C)で再びプロと戦う。メジャー第3戦、日本オープン(10月12日開幕、大阪・茨木CC西C)も控えており、昨年の蝉川以来のツアー7人目のアマVにも期待がかかる。いずれかの試合で優勝なら12月のシーズン最終戦のメジャー、日本シリーズJTカップ(報知新聞社主催、東京よみうりCC)にも出場が可能となる。弊社の主催大会で、さらに成長をした姿を見たい。そんな風に思った4日間だった。(ゴルフ担当・富張 萌黄)
◆中野 麟太朗(なかの・りんたろう) 2003年11月11日、台湾生まれ。19歳。台湾人の母を持ち、ゴルフ漫画「あした天気になあれ」を読んで7歳から競技を始める。明大中野中、高を経て22年4月に早大スポーツ科学部へ入学。高3時に全国高等学校ゴルフ選手権優勝。今年6月、日本アマチュア選手権初優勝。得意クラブはドライバーで平均飛距離は300ヤード超え。目標の選手はジョン・ラーム(スペイン)。184センチ、90キロ。