
2月、ジュニア交流会で指導する中嶋常幸
◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
青木功、尾崎将司と並ぶレジェンド「AON」で最初に会えたのは「N」こと中嶋常幸だった。2月、私の故郷・茨城で開催された小、中学生向けのゴルフ教室に出向いた。名刺を渡すと「茨城は優秀な星野が多いのかね」と返ってきた。同郷の男子プロ・星野陸也の名前を出してくれたことで、緊張が和らいだ。サッカー日本代表・森保一監督からの「星野仙一さんとつながりはありますか」と同じように、何げない言葉に救われた。気難しい人―。中嶋に勝手に抱いていたイメージは数分で消えた。
講習会では、小、中学生に21歳当時の初恋、お金の話を披露し、空気を作った。現役時代の収入は「全部で〇〇億円。9割は奥さんが持っていく」と言うと大爆笑。だが、指導に移ると空気が一変した。高速で6球連続ショットを打つ練習で「限界を超えろ!」と眼光は鋭かった。
昨年70歳を迎え、一つの線を引き「世界で活躍する選手を育てるのが、生きがい」と考えを変えた。講習会で「無理だ…、できない」という少年に優しく話しかける姿があった。「言葉は人を傷つけることも、癒やしもできる力がある。口からプラスなものを出そう」
米マスターズで4年ぶりVを狙う松山英樹を「常に100点を求めて偉い。AONは99点を満点とした。1%は人間味だから」と評した。中嶋の振る舞いは、子供のしつけ、同僚への指示など伝える難しさを痛感する私にとっては、貴重なやりとりだった。
本音と建前、その隙間でこぼれる言葉に人柄が表れる。誰しも数%あるであろう人間味を楽しみながら、言葉を交わしたいと思う。(ゴルフ担当・星野 浩司)
◆星野 浩司(ほしの・こうじ) 2008年入社。販売、芸能を経て、サッカー担当では東京五輪、カタールW杯を取材。