手嶋多一、46歳の元気の秘密 熟練のドローヒッターとっておきのレッスンをどうぞ 武藤のコラム


 46歳のベテラン、手嶋多一が「ミズノオープン」に勝った。大会の正式名が「全英への道 ミズノオープン」とこだわっていることでわかるだろう、あの全英オープンのオフィシャルサプライヤーとして1980年代から支え続けるミズノが、その功労の見返りに上位4人を、全英オープンに送り込む日本予選も兼ねた大会だ。

 今年はメッカ、セントアンドリュース開催である。めったなことでは、はしゃがない。クールな手嶋も7月の全英オープン出場を決め手放しで喜ぶ。心からおめでとう!だ。

 福岡・田川高校時代は九州ジュニアを4勝、家がゴルフ練習場という好環境、ジュニア育成で成果を上げる九州で7歳からボールを打つ理想的な少年時代、九州に手嶋あり。ジュニア世代のヒーロー、誰知らぬ者がいなかった。

 大学は米・東テネシー州立大。172センチ、70キロの小柄。米国で過ごし英語堪能。持ち球のドローに磨きをかけたことがよかった。強い球質のドローを徹底してみがき確固とした技術が身についた。

 今回で8勝目と優勝回数が低いのは、この世代はAONの3人で200勝近くをあげる“異常事態”、日本ツアーの若手はみんな苦労したのだ。手嶋も地元九州の「KBCオーガスタ」で9分9厘優勝を手中にしていたのをジャンボ尾崎のチップインを含むバーディー攻勢で一瞬にしてタイトルをフイにしたこともあった。

 そんな中、東京GCの01年「日本オープン」に勝ち07年は「カシオオープン」にも勝った。2014年には、7年も遠ざかっていた優勝から復活する「日本プロ選手権」優勝で日本のメジャー2冠。そして今季早々と8勝目だ。ベテランへの最大のほめ言葉は“いぶし銀”だが、まさにその“称号”にふさわしい。あと4年で50歳、米チャンピオンツアーに殴りこんでほしい。

ボールのラインは空にあり、その究極の理論

 年を経るにつれ輝きを増すキャリア。その技術。手嶋ゴルフのエッセンスは「ラインを大事にするゴルフ」に尽きる。その一端を皆さんにおすそ分けしよう。

 2001年、手嶋が日本オープンに優勝したことは紹介した。その直後、私は貴重な経験をしている。報知新聞社の専属評論家としてその翌年、半年以上にわたり手嶋のレッスンコラムを担当した。その最初の取材日、彼はウエッジと5アイアンを手にやってきた。当日は写真取材なしのテーブルを挟んでの対談形式。それを知っていながら持ってきた2本のクラブに私は感じるものがあった。“これは面白いことをきけるぞ!”・・長年の勘は当たったのである。

 「パットは打ち出しの30センチから1メートルが大事。ラインを決め、そのラインにボールを乗せる。読みと実際が合えばカップインする確率は非常に高くなります」

 ラインにボールを乗せていくとは、よく言われることでボールから先30センチから1メートルくらいにスパット(目印)を決めておくとラインに乗せやすい、といわれる定番のパッティングレッスン。

 手嶋のパット巧者ぶりは、そのドローヒッターとしての存在感と同様プロ仲間でも有名だが「ラインの出し方のうまさ」、「ラインへの乗せ方の巧みさ」としてプロ仲間には知られるところ。多くのプロが注目したものだが「最近はそれがうまくいかなくて僕の問題点」と手嶋は苦笑いしながら、しかし、きっぱりというのだ。「ここで強調したいのは、実はアイアンでもラインがあるということを言いたくて」との決意表明みたいなおもむき。

 手嶋は手にした5アイアンのヘッド部分をテーブルの上に置いて言った。「5アイアンには35度くらいのロフトがありますが、そのロフトの向きにボールを打つのがアイアンショットです。5アイアンのロフトが出すアイアンの高さと50度のウエッジの出す高さは当然角度が違うから高さが違います。それがアイアンのライン。ということで、アイアンのラインは空中にあります」

 アイアンにもラインがある。パットのラインはグリーンの上を直線で転がる。アイアンは直線のラインとともにロフトが造る角度、つまり空中にラインがある、というのだ。

 目からうろこ、だった。目標に打つ時、ゴルファーは直線でしかとらえていない。グリーンの旗、フェアウエーのど真ん中。もうその一点を目指してしまいがちだ。ボールには高さがあるのだから直線だけで狙うには無理があるよね、手島による問題提起だった。手嶋は「ロフトどおりに打つゴルフは空中にこそラインがある。ここのところを追求するのがゴルフではありませんか」と理解を求めてきたのだ。

 手島の狭いスタンスから右足体重で飛距離アップを目指すパワフルなドライバーショット。落ちて左に食い込んで止まるアイアン。つかまるボール、すなわちコントロールの良いドローボールを駆使したゴルフは、空中に描く理想のラインを求めていまがある。それはいまようやく完成の域を迎え花開き始めた。

 「ドローボールを打ちたかったら右腰の前にあるボールを打つつもりで、右手が右腰の前に来たら肘から先を伸ばしてつかまえなさい。右手はインパクトの後に伸ばすのではもう手遅れ、右手をしっかり使いましょう」手嶋ゴルフの神髄だ。やってみるか、やらざるべきか。それはあなた次第だ。

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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