長尺考、吉田弓美子の優勝に喝采だ 武藤のコラム


 女子ツアー第12戦「中京テレビ・ブリヂストンレディース」(中京GC石野コース)は長尺をピンタイプの普通のパターに代えた“張り切り姉ちゃん”吉田弓美子が勝った。

 一昨年、3勝をあげながら昨年は勝てずどうしたのか、と心配していたら突然の復活だ。それも長尺を捨てて普通の長さのパターを使ってポンポンと入れまくった。楽勝、会心、見事な優勝に感激した。

 プロゴルフ界は2016年1月1日をもって長尺禁止。正確には長い、短いを問わず、体の一部にグリップエンドを固定するアンカリング行為の禁止がなされる。胸に固定する長尺、腹部に支点を置くベリー(腰)パターは、ゴルフのスイングに反するとして禁止されるのだ。(ただし競技のみ。一般のラウンドではご随意に)

 御多分にもれず腰痛持ち。吉田はプロ入り直後から腰に負担のかかりにくい長尺派で6年余も使った。が、ルール改正はショックだったが、悩んでいても仕方ない。すぐやめた。だが、ゴルファーなら知るところ、まったく違う感覚に戸惑い、昨年は成績が上がらず苦しんだ。この試合も、最終パットは50センチを入れれば優勝のウイニングパット。だが、このパットが吉田には恐怖だった。「外したらどうしよう、長尺がほしい」―不穏な気持ちがよぎったという。

 誰もが襲われるプレッシャーの中の心理。だから長尺にした、苦労してそんな弱さを克服したはずなのに、大事な時になるほど“悪魔”は顔をもたげたのだ。それがゴルフ、それが人の弱さ?よくわからない。

 長尺からの転向に模索するアダム・スコット、ビジェイ・シン、チャンピオンツアーの王者、ランガーら、時代を造った世界の名手がいま手探りの真最中だ。

 スコットは今季、標準に変えたが、マスターズではたまらず長尺に戻し現在に至る。パットの不安はラウンドの流れを変えた。「入るはずのバーディー、外してはいけないパーパットがうまくいかないと流れがつかめず、自分が自分でないような感じだ」いったん長尺に戻し気持ちを立て直し、その後に来年のことは考えればいい、とあきらめ顔。悩みは続く。ランガーは今シーズン、長尺で押し通すようだが、いつ切り替えるのか注目だ。イップスといわれるシンは何を使うか、考えるのもおぞましいとばかりあれこれ手にして明らかに迷っている。

 名手たちでこの苦しみ。それだけに吉田の“脱・長尺優勝”は快挙だ。28歳。神奈川の県立厚木北高出、エリートの宮里藍、横峯さくらの1年下でもまれた雑草の強さはただ者ではない。世界は広いが、筆者は脱長尺で勝った選手を他に知らない。腰痛克服にトレーニングを取り入れ7キロ減量に成功した努力が出来る吉田。覚えている人も多いだろう。昨秋の「NOBUTA GROUPマスターズGCレディス」の最終日、ホールインワンのかかった17番で見事エース達成したのを。

 あのとき打った瞬間「入れ~っ!」とさけぶと、その気迫に驚いたボール?が本当にカップインしてしまった。200万円を手にした吉田、「ホールインワンのかかったホールでは必ず打った後に,入れ!と叫ぶことにしている」と言って驚かせた。

 ちょっと人と違ったものを持った吉田だからこそ、今回の不本意なルール改正も前向きに乗り切れる。今回の優勝、これを称して快挙という。吉田さん、あと2、3勝。その調子で頑張って、運命を変えちゃおうぜ。と、心から面白がっている

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

最新のカテゴリー記事