【古賀敬之のゴルフあれこれ】  第三回 グリーン上に「スライスライン」や「フックライン」は存在しない


 数多い〝和製用語〟の中で、これだけはいただけないというものがある。それがグリーン上における「スライスライン」「フックライン」だ。

 本来の「スライス」の意味は「薄く切る」こと。オニオンスライスやスライスパンなどのように使われる。それがゴルフ用語として用いられるのは、クラブヘッドがボールの外側から斜めの軌道で当たる様子がナイフで物を薄く切る動作に似ているから。だから、カット(切る)打ちとも呼ばれる。外側から斜めに入ったクラブヘッドはボールに時計回りの「右回転」をかけるために、空中を右に湾曲しながら飛んでゆく。一方の「フック」は引っ掛けるという意味。いわゆる引っ掛けボールで、ボールには反時計回りの回転がかかるために空中で左に曲がって行く。つまり、「スライス」だの「フック」だのというのは、プレーヤー側が引き起こした〝原因〟を意味するもので、ボールが左右に曲がったのは、その〝結果〟。しかも、空中での現象であると同時に、すべてが右利きプレーヤー目線での表現なのだから、なおさら頂けない。レフティーがスライスしたら左に曲がり、引っ掛けたら右に飛んで行く。

 百歩譲って右利き目線で考えても、グリーン上に急な傾斜があって、大きく右に曲がるラインなら、例え「引っ掛けて」打ってしまったとしても、打ち出し方向こそ左側になるが、ボールは最終的に右に曲がっていくはずだ。逆に、左に曲がる傾斜のラインで「カット(スライス)打ち」しても、ボールは最終的に左方向に曲がっていくだろう。

 つまり、スライスライン、フックラインは〝原因〟と〝結果〟をゴチャ混ぜにした和製英語。きちんとゴルフを知る支配人に教育されたゴルフ場のキャディーさんたちは決して使わない用語にもなっている。

 ならば、本場のイギリスやアメリカではどう表現されるのか、気になるところだが、英語で右に曲がるのが「BRAKE RIGHT(ブレーク・ライト)」。左なら「BRAKE LEFT(ブレーク・レフト)」という。このブレークは「壊す(BREAK)」ではなく、「ブレーキがかかる」という意味。つまり、「右(左)にブレーキがかかる」という言い方になる。NHKで放送されるゴルフ中継などで解説やリポーターとしてお馴染みの田中泰二郎プロは「解説の時にはスライスラインだの、フックラインだのという言葉は決して言わない。何故なら、グリーン上ではありえないことだからだ」という。

 すっかり一般に定着しているようだが、田中プロが言うように、これらは、間違った言い方だから気をつけたほうがいいかも…、海外では絶対に通じない。

 

 ◇古賀 敬之(こが・たかゆき)
1975年、報知新聞社入社。運動部、野球部、出版部などに所属。運動部ではゴルフとウィンタースポーツを中心に取材。マスターズをはじめ男女、シニアの8大メジャーを取材。冬は、日本がノルディック複合の金メダルを獲得したリレハンメル五輪を取材した。出版部では「報知高校野球」「報知グラフ」編集長などを歴任。北海道生まれ、中央大卒。

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