東京五輪の女子ゴルフは4日、埼玉・霞ケ関CCで開幕する。稲見萌寧(もね、22)=都築電気=、畑岡奈紗(22)=アビームコンサルティング=の日本代表2選手は3日、会場コースで練習ラウンドを行った。今季好調の稲見の原点は、東京・足立区にある荒川河川敷の「新東京都民ゴルフ場」にあった。レジェンド・青木功(78)も「原点」と語る場所。当時の支配人らが小学生時代を語った。また、千葉市の練習拠点「北谷津ゴルフガーデン」の社長も努力を重ねる稲見の素顔を明かした。
「練習の虫」といわれる稲見の原点は、荒川河川敷にあった。9歳でゴルフを始め、自宅から車で約20分の「新東京都民ゴルフ場」に通った。営業時間は日の出から日の入りまで。小学生は1日2100円で打ち放題。9ホール(パー31)のコースで腕を磨いた。当時の支配人・三島哲男さんは「毎日のように来ていた。最低でも2~3周。自分でバッグを担いで気が済むまで打っていたよ」。あまりの練習熱心さに「応援したい」との気持ちになり、無料でラウンドできるようになった。
荒川沿いのコースは各ホールのグリーンが直径約10メートルと狭い。ラフやバンカーには雑草が生い茂る。盆地のため降雨で川から浸水し水がたまり、整備しきれないという。「グリーンが狭いから真っすぐ打たないと乗らない。川と隣り合わせでとんでもない強風が吹く。整備されたゴルフ場よりアプローチの技も必要になってくる」(三島さん)
稲見はそんな難コースで中学に入学する頃まで球を打ち続けた。営業終了後も練習が続くことがあったという。当時を知るスタッフの二階堂正孝さんは「昔から上手でしたね。『いくつで回るの?』と聞いたら『28、29』とか言って、すごいなという話をした記憶がある。萌寧ちゃんはグリーンにバンバン乗せていました」と懐かしそうに話した。
「世界のアオキ」の原点でもある。のちに日米男子ツアーで通算52勝を挙げる青木は15歳の時、研修生としてキャディーなどの仕事に励んだ。二階堂さんは「青木さんも『私の原点』と言ってくれて、萌寧ちゃんも五輪出場。“世界のアオキとイナミ”が育った所と言ったらすごいこと」と笑った。
19年10月に台風でコースが浸水し、一時廃業。約10か月後に刷新して再開し、今も都民ゴルファーに愛されている。三島さんは別のゴルフ場に移ったが、ツアー観戦に行くなど稲見の活躍を応援している。「ここで練習していた萌寧ちゃんがこうして活躍してくれてうれしい」と三島さん。二階堂さんも「初優勝の記事を受付に貼ったり。プロになってからは会えていないけど今でも応援しています」。荒川河川敷から日本代表に成長した稲見が、地元の声援を背に日本勢初の表彰台を目指す。(宮下 京香)
◆新東京都民ゴルフ場 1955年に開場し、青木功が研修生をしていた約60年前までは計36ホールあったが、現在は9ホール。1800~1900ヤードでパー31。JR王子駅から車で15分、料金は平日3750円、土日祝は4750円から。
◆稲見 萌寧(いなみ・もね)1999年7月29日、東京・豊島区生まれ。22歳。9歳でゴルフを始め、2016年にナショナルチーム入り。18年のプロテストに一発合格。19年7月のセンチュリー21レディスで初優勝。今季ツアーでパーオン率74.47%の2位。今年5勝を含む通算7勝。日本ウェルネススポーツ大に在学中。家族は両親。166センチ、58キロ。