蝉川泰果が95年ぶり2人目アマでメジャー優勝 1927年は蒋介石が南京事件、芥川龍之介が死去した時代


18番、優勝を決めるパーパットを沈めた蝉川は、力強いガッツポーズで喜んだ(カメラ・馬場 秀則)

18番、優勝を決めるパーパットを沈めた蝉川は、力強いガッツポーズで喜んだ(カメラ・馬場 秀則)

◆男子プロゴルフツアー メジャー第3戦 日本オープン 最終日(23日、兵庫・三甲GCジャパンC=7178ヤード、パー70)

 6打差首位から出たアマチュアの蝉川泰果(たいが、21)=東北福祉大4年=が2バーディー、2ボギー、1トリプルボギーの73、通算10アンダーで2位に2打差をつけ、初日から首位を譲らない完全優勝を果たした。アマのメジャーVは第1回1927年大会の赤星六郎以来95年ぶり2人目の快挙。9月のパナソニックオープンに続く、史上初のアマ2勝目にもなった。日本男子ゴルフ界を盛り上げ、今後は海外4大メジャー制覇を目標に掲げた。

 蝉川が日本ゴルフ史に名を刻んだ。最後はカラーから6メートルのパーパットを沈め、右手を力強く握った。95年ぶりのアマチュアによる日本一。歴史的な瞬間を大拍手が包み込んだ。「勝つことを目標にした試合で、しっかり勝ち切れてうれしい」。1か月前の初優勝と違い、涙はなかった。

 ニューヒーローは序盤から豪快かつ“魅せるゴルフ”を展開した。1番で300ヤード超のドライバーショットから、バーディー。2番で大学の先輩・比嘉を8打リード。地元・兵庫の観客から1ショットごとにどよめきが起こり「勝ちに徹するゴルフより、見ていて面白いゴルフを」。9番のトリプルボギーで4差に。後半も2差に迫られ「正直やばいな」と冷や汗もかいたが、逃げ切った。

 「ど根性精神。松山(英樹)さんでもアマ2勝はしていない。自分やるなって」。複数優勝もアマ史上初だ。第1回大会を制した赤星六郎に続いた偉業についても21歳は「自分でもびっくり。(赤星さんのことは)父から聞いた程度で、ひいおじいちゃん(世代)くらいのこと」と思いを巡らせた。

 1歳の時、父・佳明さん(61)がプラスチックのクラブを購入したのが原点。おむつが取れたばかりの頃に中古クラブを買ってもらい、のめり込んだ。だが、決して順調な道のりではなかった。昨冬、アマ日本代表に選出されたが、それまでプロツアーでなかなか結果が出ず、苦しんだ。本人は「円形脱毛症になった」と告白。それでも「ゴルフが野球、サッカーに勝つくらいになるように」と強い思いを持ち続けた。

 今年6月に下部ツアーを制すと、攻めのドライバーに自信を深めた。「全部の試合で勝てるイメージが湧いている」。9月にはレギュラーツアーV。今大会、アンダーパーが最後は5人だけになったが、プロの中でもその武器が光った。平均飛距離は309ヤード強で全体2位、フェアウェーキープ率も73%超の4位と飛んで曲がらないショット力が、蝉川にはある。

 夢は大きく4大メジャー(マスターズ、全米、全英、全米プロ)制覇を掲げる。「タイガー・ウッズみたいな選手になりたい」と観客に宣言した。海外志向は強いが「30歳までは国内を主戦場にして、ツアーを盛り上げたい。しっかりとした土台で向こう(米国)に行きたい」と思い描く。スポット参戦しながら、力をつけていく。アマの試合の関係で11月のプロ転向が有力。そうなれば、27年までツアー出場権を得ることになる。今季最終戦・日本シリーズJTカップ(12月、報知新聞社主催)にも出場予定。アマ世界ランク1位は強豪たちをなぎ倒し、堂々と次のステージへ羽ばたく。(岩原 正幸)

 ◆1927年の第1回日本オープン 神奈川・程ケ谷CC(6170ヤード、パー70)で2日間72ホールで開催され、アマチュア12人、プロ5人の17人が出場した。米国留学を経験し、プロを指導していたトップアマチュア・赤星六郎が大会前から優勝候補筆頭とされていた。赤星は第1ラウンド(R)79で5打差の2位発進。第2Rはコース記録の73をマークして単独首位に立った。第3Rは79で2位に9打差をつけてリード。最終Rは78で回り、通算29オーバーで2位のプロ・浅見緑蔵に10打差をつけて制した。

 ◆1927年(昭和2年)の世相 金融恐慌が起こり、高橋是清蔵相が3週間を期限とするモラトリアムを発令。蒋介石が率いる国民革命軍が南京を占領する南京事件が起こる。「羅生門」「鼻」「河童」を代表作とする作家・芥川龍之介が35歳で死去する。夏の全国中等学校野球大会で高松商(香川)が、決勝で広陵中(広島)を5―1で下して優勝。米大リーグでベーブ・ルース(米国)が当時のメジャー記録となるシーズン60本塁打を放つ。東京の上野―浅草間に日本初の地下鉄が開通した。

 ◆蝉川が達成した主な記録

 ▽出場2戦連続V 1973年のツアー制施行後、アマチュアでは初。ツアー69度目。3戦連続Vがツアー最多記録で尾崎将司、青木功、片山晋呉、謝敏男(台湾)、グラハム・マーシュ(豪州)が達成。

 ▽国内アマ初の2勝目 国内男子アマは倉本昌弘、石川遼、松山英樹、金谷拓実、中島啓太が1勝。女子も清元登子、宮里藍、キム・ヒョージュ(韓国)、勝みなみ、畑岡奈紗、クリスティン・ギルマン(米国)、古江彩佳が1勝。メジャーVは16年畑岡の日本女子オープンのみ。

 ▽大会最少ストローク パー70での4日間72ホール通算270ストロークは、14年大会の池

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