今ではごく普通に見られるヘッドカバーだが、これを発明したのは日本人。1912年(大正元年)に新興の商社だった鈴木商店のロンドン支店長として英国に赴任していた高畑誠一氏が発明者。英国赴任中に知人の勧めでゴルフを始め、たちまち虜(とりこ)になった。その後、当地の名門「アディントン・ゴルフクラブ」のメンバーになったことで、クラブを新調することにした。当時、今のような市販のものはなく、クラブは専門の職人に特注した。すると、木目も美しいパーシモン製のクラブが出来上がり、それを見るなり感動。「このクラブヘッドを傷つけたくない」と靴下をヘッド部分にかぶせて持ち歩いた。しかし、その後、「せっかくの美しいクラブに靴下では…」と、知人の妹に頼んで黄色い毛糸で、靴下に似たヘッドカバーを編んでもらったところ、ゴルフ仲間の間でたちまち評判になり、広がった。
やがて、「アディントン・ゴルフクラブ」が高畑氏のヘッドカバーを真似て製造販売したところ、これが人気を呼んで、あっと言う間に全世界に広まった。今では、色も形も材質も様々だが、そのルーツは〝靴下〟。サンタクロースもビックリだろう…。モノを大切にする日本人ならではのアイデアだった。
ちなみに、1927年(昭和2年)に起こった金融恐慌によって鈴木商店は倒産したが、高畑氏は、その営業権を引き継いで「日商」を設立。その後、岩井商店と合併し「日商岩井」(現・双日)となって、その会長を務めた。1978年没。
◇古賀 敬之(こが・たかゆき)
1975年、報知新聞社入社。運動部、野球部、出版部などに所属。運動部ではゴルフとウィンタースポーツを中心に取材。マスターズをはじめ男女、シニアの8大メジャーを取材。冬は、日本がノルディック複合の金メダルを獲得したリレハンメル五輪を取材した。出版部では「報知高校野球」「報知グラフ」編集長などを歴任。北海道生まれ、中央大卒。