ゴルフボールの表面には、ディンプルと呼ばれる小さなくぼみがたくさんある。何故、こんなくぼみがついているのだろう? 実はこれ、打球に揚力を与えるためのもので、かつてその数は336個あったが、最近では飛距離を得るため、大きさや形状を変えたり、数を増やしたり、減らしたりで318個のものから、中には540個というものまである。
くぼみの発端は、フェザーボールが衰退した19世紀頃。この頃、フェザーボールに代わって使われだしたのが、ゴムや樹脂を固めたボールだった。勿論、ディンプルなどはなく、表面はツルツル。ところが、そんなツルツルボールを使い込んでいるうちに表面に傷が付いてガサガサになった。そんな中、あるゴルフ好きな大学の物理学の教授がボールに傷が付くことで新品の状態より飛距離が伸びることに気がついた。そこで、新品のボールにわざと傷をつけてみると、傷が付きボールの方が、新品のツルツル状態より格段に飛距離が伸びていた。このことから当初は窪みではなく、ボールの表面に縦横の直線を網の目に描いて商品化。ここからさらに改良を加え、窪み、いわゆるディンプルという形に変えていった。
では、何故、ボールの表面にくぼみがあると遠くに飛ぶのか? これは物理学の範疇に入るが、大きな理由は2つ。先ず、揚力の問題。クラブで打ったボールは、回転しながら飛んでいく。クラブのフェースの角度はいずれも90度以下であり、この状態で打ち出されたボールには「上向きの回転(バックスピン)」がかかる。すると、ボールの上の空気の流れが下の流れよりも速くなって、ボールの上と下に気圧差が生まれ、ボールは気圧の低い方、つまり上側に引き寄せられる。これこそが揚力。その時に、ボールの表面に小さなデコボコがあることで、ボールの上下を流れる空気の速度差がさらに大きくなってくるのだ。
もう1つの理由は「空気抵抗」。ボールを打ち出した時に、ボールの後ろに回った空気がボールを引き寄せる気流(低圧部分)を作ってしまう。これが「空気抵抗」なのだが、球体であるゴルフボールが飛んだ場合は、ボールの後方に真空に近い低圧部分ができてしまう。この低圧部分がボールを引き戻そうとする抗力となる。つまり空気抵抗だ。ところが、ディンプルがあることで、気流が乱れ、低圧部分が小さくなって、ボールを引き戻そうとする空気抗力が弱まり、ボールのスピードが持続されるという訳。この説明は物理の分野で、かなり難しくなってしまうが、簡単に言えば、ボールの表面にデコボコがあると乱気流が発生し、ボールを後ろに引っぱる空気の動きが小さくなるということ。そこで空気抵抗が減って飛距離が伸びるのだ。
ちなみに、表面がツルツルのボールを使った場合、ディンプルのあるボールに比べ、飛距離は半分から3分の1程度しか飛ばないそうだ。
◇古賀 敬之(こが・たかゆき)
1975年、報知新聞社入社。運動部、野球部、出版部などに所属。運動部ではゴルフとウィンタースポーツを中心に取材。マスターズをはじめ男女、シニアの8大メジャーを取材。冬は、日本がノルディック複合の金メダルを獲得したリレハンメル五輪を取材した。出版部では「報知高校野球」「報知グラフ」編集長などを歴任。北海道生まれ、中央大卒。