米男子プロゴルフツアーの今季メジャー初戦、4月のマスターズを2年連続で取材した。プライベートで初観戦に訪れた、プロ野球巨人の前監督・原辰徳さん(57)=巨人特別顧問=と現地で初めてお会いした。
記者は、アマチュア野球担当時代に東海大に在籍していた原さんの甥っ子・菅野智之投手(現巨人)を3年担当した。その間、菅野の母で原さんの妹・詠美さんや原さんの父親でもある故・原貢さんにも取材で大変お世話になった。そして今度は原さんと3日間、ご一緒させて頂いた。日本勢唯一の出場の松山英樹(24)=LEXUS=組に一緒に同行して歩き、その眼力の鋭さに驚かされた。
最終日。最終組の1つ前の組でスタートする、松山の練習を見に打撃練習場を訪れた。原監督はすぐ後ろの座席から、サングラス越しにじっと練習を見守っていた。松山のスタート時間に合わせて席を立ち、1番のティーグラウンドへ移動。記者はそのタイミングで歩み寄り、あいさつした。
「松山君の近くにいた、あのウィレットっていう選手? あれはどこの国の選手かな? 初めて見ましたけど良いショットを打ちますね。どのクラブも精度が高い。今日は良いプレーをするんじゃないかな。これまで名前を聞いたことがなかったけど、ああいう選手が世界中から集まってくるのがマスターズという舞台なのですね」。ベストスコア66とゴルフもプロ級の腕前の原監督は松山のすぐ側で、打ち込んでいたダニー・ウィレット(28)=英国=の好調さを感じ取り、教えてくれた。
数時間後、その予言を思い出して鳥肌が立った。2連覇へ首位を独走していたジョーダン・スピース(22)=米国=が、12番パー3で7打をたたくなどまさかの大失速。代わって、グリーンジャケットに袖を通したのがウィレットだったのだ。3打差5位スタートで正確なショットを武器に5バーディー、ボギーなしの67。欧州ツアー5勝もメジャーは未勝利。マスターズは38位だった前年に続く2度目の出場だった28歳は正直、世界中のメディアの中でも全くの「伏兵」と言える存在だった。
ところが、指揮官として09年に野球の「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」で日本を世界一に導いた原さんには、スタート前の練習でその日の活躍が見えていたのだ。通算5アンダーでウィレットの優勝が決まった直後、驚いた記者は原さんに尋ねた。すると「練習場でのショットの精度が、ものすごかったですからね。雰囲気といいますか、たたずまいも非常によかったですし」と、自らも世界一を知る名将は冷静にうなずいた。
例年になく強い風が吹き荒れた今大会。原さんは松山に初めて18ホールついて歩いた第2日終了時点で、松山の健闘も感じ取っていた。「彼のプレーは今日初めて見たんですけど、オーガスタの風と融合して堂々と戦っている」。その言葉通り、松山は風に吹かれて日に日にグリーンが硬く、速くなる難条件を“追い風”に変えた。最終日まで優勝争いに加わり、日本人初の2年連続の1ケタ順位となる7位に食い込んだ。競技は違えど、選手の調子や状態を見抜く卓越した眼力。世界の頂点に立った原さんの鋭い洞察力に、ただただ感嘆するしかなかった。
◇榎本 友一(えのもと・ともかず)
東京都生まれ。中大卒業後、サンケイスポーツ文化報道部を経て2003年に報知新聞社入社。箱根駅伝担当、北京五輪担当などを経て13年からゴルフ担当。男子ツアー初取材だった同年つるやオープンでは、尾崎将司のエージシュート&松山英樹のプロ初Vを目撃する強運男。