石川遼が1年2か月ぶりの優勝を果たしたANAオープンを取材して、うれしいことがあった。18番グリーンで優勝スピーチを終えようとしていた石川は何かに気づいたのか「あ、すいません」と言葉を止め、続けた。
「この大会を支えてくれたボランティアの皆さん、本当にありがとうございました。僕らがこうやって安心してプレーできるのはみなさんのおかげです。このコースはラフが深いので、僕の曲がったボールを見つけてくれて助かりました。おかげさまで1個もボールをなくさずに済みました」
何と温かく、気の利いたコメント。後方で聞いていたボランティアの方々だけでなく、スタンドのギャラリーにも笑みが浮かんだ。型通りの優勝コメントにはない、心のこもったあいさつだった。
一度スピーチを終えようと思った後にボランティアへのお礼を言ったため、うまくあいさつが締められなかった。「久しぶりの優勝スピーチで慣れてなくて…、どうしたらいいのか分からないですが」と、少し照れながら続けた。
「なまらいい経験をさせてもらいました。ありがとうございました!」
とっさのアドリブで出た北海道弁に、ギャラリースタンドが再び沸いた。このシーンを生で見ていた人はきっと、また男子ツアーに来たいと思ってくれるはず。絵になる男は、やっぱり違う。
◇岩崎 敦(いわさき・あつし)
千葉県生まれ。早大卒業後、94年に報知新聞社入社。内勤のレイアウト担当、サッカー担当などを経てゴルフ担当は2000~02年、07~10年、15年~の3回。マスターズなど米ツアーは20試合以上取材しているが、一度もタイガー・ウッズの優勝を見たことがない。