ツアー直送便 第六回 マスターズ・・・やはりすべてがマスターズだった


 毎年4月、世界中から「名手」が集う男子ゴルフの祭典マスターズ。その舞台の華やかさは担当3年目で国内、米国、中国、マレーシアなどのゴルフ場で年間・試合前後の取材を重ねてきた記者にとっても格別だった。

 会場のオーガスタナショナルGCは「世界一美しい」と言われる風光明媚(めいび)なコースだ。「緑のじゅうたん」と呼ばれるフェアウエー。深緑の高い木々に目を奪われて意外と気付かないが、起伏が激しい。全長も7435ヤードと長く、松山英樹(23)=LEXUS=のバッグを担いだ進藤大典キャディー(34)が「ここが一番きついかもしれませんよ」と話していたほどだ。

 

 今年の大会は連日夜間に雨が降った。翌朝、ぬかるんだギャラリーウェーには、緑色に着色された細かな砂利が敷き詰められていた。近くで見れば砂と気付くが、テレビではわからなかったのでは。美しさへの徹底したこだわりと努力には驚かされた。

 

 鮮やかに咲き誇る花も印象的だった。観客でにぎわい、最も華やかに見えたのは「アーメンコーナー」の一角、12番パー3。橋がかかる小川越えで高い木々がグリーンの周囲を取り囲み、風の読みが大きく左右する難ホールだ。ティーグラウンドのすぐ脇には売店もあり、一日中座って観戦する固定ファンが多かった。売店で買った緑色の「マスターズチェア」を並べて定点観測。背もたれには年が入っており「1970」と書かれ、強い日差しで黄色く変色したチェアに腰掛ける老夫婦の姿も。その背中はどこか誇らしげに見えた。

 

 雄大な緑の夢空間に流れる時間はゆったりとしていた。「パトロン」と呼ばれる観客は経済的に豊かな人が多い。朝からビールをのどに流し込み、陽気に語り合う。コース内は走ることが禁止され「BE QUIET!!」と書かれたプレートもない。各組ごとのスコアボードを持ち歩く係員もいない。スポンサーの広告掲示も一切ない。デジタル化の進む現代には珍しく、のんびりした空気が漂う。

 大会賞金は、入場券収入やコース内のゴルフショップの売り上げなどによって決まる。2年ぶりに人気者のタイガー・ウッズ(39)=米国=が出場した今大会は練習日から観客が殺到。優勝賞金180万ドル、賞金総額1000万ドルはともに大会史上最高額となった。大会中にしか買えない「MASTERS」のロゴの入ったグッズは連日、飛ぶように売れていた。

 

 連日夏日となったコースでは、1・5ドルで氷入りのソフトドリンクが売られていた。「MASTERS2015」と緑色のロゴが書かれたプラスチックのカップ入り。飲み干した大半の観客は捨てずに、何個も重ねてお土産に持ち帰っていた。ゴミを減らすためのアイデアでもあるのだろう。選手の華麗なプレーとともに、人工的な演出を最小限に止め、ゴルフの魅力をシンプルかつ美しく堪能させようとする舞台作りに、感心させられるばかりの1週間だった。(榎本 友一)

 

 ◇榎本 友一(えのもと・ともかず)
1976年7月26日、東京都生まれ。中大卒業後、サンケイスポーツ文化報道部を経て2003年に報知新聞社入社。箱根駅伝担当、北京五輪担当などを経て13年からゴルフ担当。男子ツアー初取材だった同年つるやオープンでは、尾崎将司のエージシュート&松山英樹のプロ初Vを目撃する強運男。

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